Game Freak/Part 1/Chapter 3: Intermission

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3 インターミッション

いつかポケモンを再開するその日がくるのを待ち力をたくわえ続けた五年間

『ポケットモンスタ—』は、プロジェクトがスター卜してから完成まで、じつに六年以上もの歳月を必要とした。常識で考えれば、たったひとつのプロジェクトのために、それほどの長い年月をかけていては、会社の運営に支障をきたすのは必至である。したがってゲー厶フリークでは、『ポケットモンスター』を無事に完成へ導くためにも、それと並行して他にいくつものゲー厶制作をおこなう必要があった。
以下に紹介してゆくソフト群は、そうした過程で作られてきたゲー厶フリーク作品である。よく名前の知られたものあるが、その存在すらほとんど知られていないものもある。「このソフトもゲー厶フリークが作っていたのか!」と、驚かれる作品もあるに違いなここでは、そうした数々の作品が作られていった際の動機や意図を解説しながら、ゲー厶フリークがテレビゲー厶というものをどのようにとらえているのかを見ていこう。

83  第3章  インターミッション

[[IMAGE CAPTION 1|
ジェリーボーイ
]]
[[IMAGE CAPTION 2|
スーパーファミコン用
ROMカートリッジ
♦発売元♦
EPICソニー
♦発売日♦
1991年9月13日
]]
[[IMAGE CAPTION 3|
©1991 Sony Music Entertainment (Japan) Inc.
]]

スライムに変身させられた主人公ジェリーを操作して冒険する、横スクロール型のアクションゲーム。体を伸び縮みさせたり、ボールを飛ばして攻撃する。建物の壁や天井に張りつくことができるため、穴に落ちても体を壁に張りつかせてやれば、ミスを逃れることができる。1991年度《AVAマルチメディアグランプリ(財団法人マルチメディアソフト振興協会主催)》においてキャラクターデザイン賞を受賞。
これは、デビュー作『クインティ』の商業的成功をステップとして、ゲー厶フリ——クが企業からの依頼を受けて制作した最初の作品だ。主人公のモチーフを、ヒト型の生物ではなく、伸び縮みするスライムに求めるなど、新しい操作感覚の追求を試みている。また、大きなボスキャラクターを登場させたり、各ステージのボスごとに異なる戦い方をさせるなど、実験性の高いアイデアを積極的に採り入れている。この作品に関して、ゲー厶フリークでは企画考案とキャラクタ—デザインだけを担当した。当時は会社ができたばかりの状況でスタッフの数もまだ少なく、それでも複数の仕事をこなすためには、企画だけ、あるいはプログラミングだけといったように分業し、いくつもの仕事を掛け持ちしなければならなかったからだ。しかし、その結果は残念ながらゲー厶フリークが理想とする形にはならなかった。発売元の

第1部  ポケットモンスター  84

プロデューサーが「有名なプログラマーと組めばゲー厶も作りやすいのではないか」との配慮のもとに連れてきたのは、物理計算とそのシミュレーションには長けているが、テレビゲー厶はほとんどやったことがない、という人物だったからだ。
テレビゲー厶のなかで、主人公がジャンプをするとぎに求められるのは、物理的に美しいジャンプではない。いかにも跳んでいるように見えればいい”デフォルメされたジャンプ“だ。そのため、主人公の操作感に関する打ち合わせをしても、テレビゲー厶的な常識で話をするゲー厶フリークと、あくまでも物理法則を基盤にして話をするプログラマーとでは、うまく話が嚙み合わないということが起こった。結果として、この作品はゲー厶フリークにとって大きな課題を残してしまったのだ。田尻はこのとぎの反省を踏まえてか、のちに

雑誌でのインタビューなどで、
「テレビゲー厶のアイデアを考えるためにはテ レビゲー厶に詳しい必要はない、という人がい るが、それは違うと思う。テレビゲー厶のおも しろさの構造を知らなければ、テレビゲー厶を 作ることなどできないはずだ」
といった意味の発言をしている。

[[IMAGE CAPTION 1|
▲オープニングでは舞台劇風の演出も試みられており、初期のゲー厶フリークが独自の作風を確立しようと模索していたことがわかる。
]]

85  第3章  インターミッション

[[IMAGE CAPTION 1|
ヨッシーのたまご
]]
[[IMAGE CAPTION 2|
ゲームボーイ/ファミコン用
ROMカートリッジ
♦発売元♦
任天堂
♦発売日♦
1991年12月14日

©1991 Nintendo
]]

[[HORIZONTAL TEXT|
任天堂の人気キャラクター〈ヨッシー〉を主人公にして制作された、パズル型アクションゲーム。上から落ちてくる様々な模様のブロックをマリオが受け止め、同じ種類のブロックどうしを合わせて消していくというもの。言語を必要としないゲームデザインは、日本国内のみならず世界のマーケットにもアピールし、ゲームボ—イ用、ファミコン用とを総合して、通算400万本以上の大ヒットを記録した。
]]

この作品は、実質半年程度の期間でゲー厶ボ—イ用とファミコン用との二種類がほぼ同時進行で制作された。
制作にあたってゲームフリークが念頭に置いていたのは、麻雀の魅力をテレビゲー厶に封じ込められないだろうか?ということだった。麻雀をやっていると、いくらテクニックを駆使しても負けてしまうこともあれば、偶然の力によって勝ってしまうこともある。しかし、テクーーックを磨かずにいたのでは勝てるようにならない。麻雀におけるそんな偶然性と戦略性とのせめぎあいに、田尻は「人間の運命すら感じさせることがある」という。
これらのことを考えた結果、ゲー厶フリークでは『ヨッシーのたまご』というゲー厶にも、麻雀に特有の“待ちの状況”を発生させるようにした。この作品では、Aゲー厶とBゲー厶の二種類のモードを遊ぶことができるが、Bゲー

第1部ポケットモンスター 86

厶では、最初から積みあげられたブロックを、落ちてくるブロックと合わせて消し去っていくルールになっている。ということは、最後に残ったブロックを消すためには、それとまったく同じものが落ちてくるのをひたすら“待つ”という状況が発生する。このシステムは、非常に麻雀的な構造によって成り立っているのだ。さらにこのゲー厶は、多くのアクション・パズルゲー厶と同様に、対戦プレイをすることができる。しかし、通常こうした対戦プレイの場合、あらかじめ積みあげられているブロックの種類というものは、両者まったく同じものであるのが当たり前だ。だが『ヨッシーのたまご』では、それをあえて異なったものに設定してやることによって、両者のプレイヤーに微妙な運の良し悪しを感じさせるように仕掛けている。こうした構造もまた、麻雀のおもしろみに通ずるものがあるといえるだろう。

前述したように、この作品は短期間による制作でありながら大きなヒットを達成することができた。プロデューサーからは「ヨッシーを題材にして、短期間にアイデア一発で作れるようなものを頼む」というオ—ダーが出されており、ゲームフリークではその注文に見事、応えてみせたわけである。

[[IMAGE CAPTION|
▲そば屋の出前持ちが、ドンブリを積み重ねているようなマリオ。ボタンを押すと、ブロックがずれながらくるりと回る表現が絶妙。
]]

87   第3章  インターミッション

[[IMAGE CAPTION 1|
まじかる☆タルるー卜くん
]]
[[IMAGE CAPTION 2|
メガドライブ用 ROMカートリッジ
♦発売元♦
セガ・エンタープライゼス
♦発売日♦
1992年4月24日

© 江川達也/集英社・東映動画
©1992 SEGA
]]
[[HORIZONTAL TEXT|
制作当時『週刊少年ジャンプ』誌に連載され、テレビ・アニメーションでも人気のあった江川達也氏の同名マンガをゲーム化したもの。原作同様の世界観のなかで、主人公のタルるートくんが魔法を駆使して友達を助けながら、ライバルたちと戦っていくアクションゲーム。
《1992年度セガ・メガドライブ・アカデミー賞(ソフトバンク社主催)》において、最優秀アクションゲーム賞を受賞。
]]
キャラクタ—性が強調されたゲ——厶であるため、この作品ではグラフィックデザイナーの杉森が企画とディレクションを担当した。田尻はあくまでもプロデューサーの立場で、全体の仕上がりと品質をチェックするにとどめた。当時、キャラクタ—ゲー厶というものは一般的にあまり良いイメージを持たれてはいなかつた。それは、キャラクターの人気だけに頼って、ゲー厶性をなおざりにした粗雑なゲー厶が量産されていたからだ。そこで、原作のキャラクタ—を活かしつつ、なおかつおもしろいゲー厶を作ることはできないだろうか? そんな可能性を追求したのが、この作品である。まず、企画の骨組みを作るにあたり、杉森は主人公の「何にでもペンで顔を書いて生命を与える」という能力に着目した。コース上に落ちているゴミ箱や消火器、あるいは電信柱のように大きなものまで、顔さえ書いてしまえば生命

第1部  ポケットモンスター  88

が宿り、自分の武器として利用することができるというアイデアだ。これなら、原作のキャラクターらしさも活かせるうえに、ゲー厶的にもダイナミックな演出を見せることができる。また『ジェリーボーイ』のときと同様に、巨大なボスキャラクターを登場させたり、ステージごとに画面進行のスタイルを変え、強制スク□—ルを採り入れたり、あるいはテレビアニメと同じ声優を起用してゲー厶中のセリフを喋らせるなどの演出も試みている。
こうした制作スタイルは、ある意味ではゲー厶フリークならではのストイックなゲー厶作りとはかけ離れたものだった。しかし見方を変えれば、ひとつのルールに縛られることをせず、キャラクターゲー厶の可能性を追求するというテーマのためには、こうしたことも大胆にやってのけるのが、ゲー厶フリークらしさのひとつでもあるといえるだろう。

発売後のセールスは思ったほどの成果をあげることができなかったが、ゲー厶雑誌などでの評価は予想以上に高かった。伝え聞くところによれば、当時のセガ社内でも「あれは良くできたゲー厶だった」という声が多かったという。

[[IMAGE CAPTION|
▲テストプレイのために十分な時間が取れなかったため、難度はやや高めになってしまっているのがいまとなっては悔やまれる。
]]

89   第3章インターミッション

[[IMAGE CAPTION 1|
マリオとワリオ
]]
[[IMAGE CAPTION 2|
スーパーファミコン・マウス専用
ROMカートリッジ
♦発売元♦
任天堂
♦発売日♦
1993年8月27日

©1993 Nintendo
]]
[[HORIZONTAL TEXT|
スーパーファミコン用マウスによる操作を主眼にした、パズル性のあるアクションゲーム。いつもは派手なアクションをウリにしているマリオがバケツをかぶせられ、迷路の中をさまよい歩く。プレイヤーは妖精ワンダを操作して、迷走するマリオを出口まで導いてやればステージクリアとなる。様々なテクニックを要求されるトリッキーなステージが全100面+エクストラ10面もあり、遊びごたえは十分。
]]
このゲー厶は、当初はスーパースコープ(バズーカ砲型コントロ—ラ)用のソフトとして企画されていた。そのためゲー厶内容もスーパースコープでの操作に適した企画として、はじめは一軒家に住み着いた謎の生物を射撃する、というようなものが考案されていた。ところが、ゲー厶性と操作性とがうまく嚙みわず、開発途中で企画の全面的な見直しがおこなわれた。そのあげくゲー厶デザインは二転三転し、タイトルも当初の『ロ—リングモンス夕—』から『クロッシングスイーパー』になり、最後になって『マリオとワリオ』に落ちついたという、非常に難産のゲー厶であった。スーパースコープ向けのゲー厶だったものが、マウス用になることでいちばん大きく変わったのは”緻密なゲー厶性を手に入れた“ことだろう。画面内の様々な仕掛けをマウスでクリックして解法を探すというゲー厶性は、テレビゲー

第1部  ポケットモンスター  90

厶の本来的なおもしろさに満ちている。このように、固定された画面内で仕掛けの種類と配置を変えることでバリエーションを与えるというゲームの作り方は、もともとゲームフリークが得意としてきたもので、この作品でもその手腕は大いに発揮されている。スーパースコープ時代にはなかなかうまく着地点が見つけられず、制作期間もいたずらに長びいていたが、マウス用としてのゲー厶デザインが生まれてからは、次々に関連するアイデアが湧いてきて、急速な勢いで完成に向かっていくことになったのだ。
ところで、発売された当時、数人のゲー厶批評家はこの作品が『レミングス』というゲー厶に類似していることを指摘していたが、田尻はその類似を肯定しながらも、「『レミングス』のルーツには『ロードランナー』があり、『マリオとワリオ』はむしろ『口

ードランナー』からの影響による部分の方が強く出ています。したがって『ロ—ドランナー』というゲー厶の幹から派生した枝として『レミングス』があり、この『マリオとワリオ』も存在するのです」
と、自作の分析をしてみせている。

[[IMAGE CAPTION|
▲マリオファミリーが勢揃いのこのゲームだが、妖精のワンダだけはゲームフリークの手によるオリジナルキャラクターである。
]]

91  第3章  インターミッション

[[IMAGE CAPTION 1|
ノンタンといっしょくるくるぱずる
]]
[[IMAGE CAPTION 2|
ゲームボーイ/
スーパーファミコン用
ROMカートリッジ
♦発売元♦ ビクター ♦発売日♦
GB版: 1994年5月
SFC版: 1994年11月25日
©1994 VICTOR
ENTERTAINMENT, INC.
©偕成社/牧蠶社 • フジチレビ • スタジオピエロ
]]
[[HORIZONTAL TEXT|
児童向け番組で人気のアニメ『ノンタンといっしょ』をゲーム化した、パズル型アクジョンゲーム。ブロックを消すための条件が、同じものを縦か横にふたつ並べるだけなので、シンプルで遊びやすく仕上がっている。加えて、特殊条件を持ったハチ(パネルを裏返さなければわからない)とクマ(並べた列がすべて消える)のパネルの存在が、対戦時においての戦略性を高め、深いおもしろさを実現してもいる。
]]
「麻雀の魅力を、一部でもTVゲームに封じ込めるイメージは、相変わらず僕の中に残っていて、『ヨッシーのたまご』では、入口に立ったけれど、もっといい答えがあるような気がしていました」(『新ゲー厶デザイン』より)田尻自身が著書の中でそう語っているように、麻雀の持つゲ——厶性をより明確にゲー厶化することに挑戦したのが、この作品だ。この頃になると、田尻のなかでは「既成のキャラクタ—を使ってゲー厶を作ること」への拒絶心はなくなっていたのだろう。それは、ある意味でプロ意識の芽生え、とも受け止めることができる。
『ヨッシーのたまご』のとぎには、対戦プレイにおいて、意図的に両者のブロックの並びを変えた。そうすることで、プレイヤーに運命の流れを感じさせようとしたからだ。ところが、この『くるくるぱずる』では逆に、

第1部  ポケットモンスター  92

両者のブロツクの並び方をまったく同じくしている点に注目したい。これはすなわち、待ち望んでいた種類のブロックが自分の方に落ちてきたということは、相手側にも同じものが落ちてきていることになるわけで、一見すると、対戦のおもしろみが失われそうに感じられるが、むしろこの方が俄然おもしろ味が増すのだ。スタ—卜状況もパネルの出現順も同じならば、クリアするために必要なブロックがきたということは、相手にも同じものがぎていることになる。有利な展開になりそうなら、素早くこなして先にそのラックを享受した方がいい。しかし、反対に都合の悪い展開が待っているとしたら、できるだけゆっくり進めて、相手がミスするのを待っていればいい。
と、このように心理的な戦略を常に考えながら遊ぶことができるのである。
残念ながら、このゲー厶はあまり良好なセー

ルスを記録できなかった。けれど、ゲー厶フリ—クではこのゲー厶を作ったことに「誇りを感じている」のだという。それは、『ヨッシーのたまご』を作ったときには乗り越えられなかった八—ドルを、ようやく「この作品で乗り越えることができたように思える」からだ。

[[IMAGE CAPTION|
▲ゲームフリーク社内ではいまもこのゲームの人気が高い。忘年会でおこなわれる社内ゲーム大会の定番タイトルにもなっている。
]]

93  第3章  インターミッション

[[IMAGE CAPTION 1|
パルスマン
]]
[[IMAGE CAPTION 2|
メガドライブ用
ROMカートリッジ
♦発売元♦
セガ•エンタープライゼス
♦発売日♦
1994年7月

©1994 SEGA/
GAME FREAK INC.
]]
[[HORIZONTAL TEXT|
メガドライブにおける前作『まじかる☆タルるートくん』の流れを引き継いで制作された、アクションゲーム。コンピュータ上に作られた人工生命のパルスマンが、悪の組織を率いるドク・ワルヤマの野望を阻止するために活躍する。当時注目を集めはじめていたヴァーチャルリアリティや人工知能、放送メディア、CG映像といったハイテクカルチャーの数々が、デザインのモチーフとして採り入れられている。
]]
企画がスタ—卜した当初は、前作『まじかる☆タルるートくん』の延長として考えられていたため、主人公はフィールド上にある様々な物体―どんなに重い物でも持ちあげることがでぎ、それを投げつけて攻撃する、という基本構造がアイデアの支柱となっていた。前作の豪快さをさらに凌駕する、非常にパワフルな主人公を想定していたのだ。
ところが、この時期のゲー厶フリークにはプランナーの佐藤大という人物が参加しており、彼の主催していた深夜のクラブイベント『トウキョウ・ゲーマーズ・ナイト・グルーブ』が、この作品の制作に大きな影響を与えた。それはナイトクラブでの深夜イベントに『パツクマン』や『ゼビウス』などの往年の名作ゲ—厶を融合させるというものだった。けれど、そうした場に最新のゲー厶はイメージが合わない。だからこそ、その雰囲気に似合

第1部  ポケットモンスター  94

うような、新鮮でクールなイメージのゲー厶を自分たちの手で作ろうと考えたのである。また、同時期に田尻は「メガデモ(=DEMO コーディング)」と呼ばれるコンピュータ・ア—卜にも触れることになる。これは北欧を発祥の地とするアート活動で、アマチュアのパソコン少年たちが、たった一枚のフロッピーディスクにサイケデリックなCG映像を容量の限界まで封じ込めたものだ。田尻はそうした若いアーティストたちのテンションの高さにショックを受け、彼らの作品からの影響を『パルスマン』のイメージ作りに反映させようとした。そのような理由から、この企画は途中で大幅な方向転換がおこなわれた。CG映像やバーチャルリアリティといった未来的なイメージを積極的に採り入れ、主人公も「豪快でパワフルなキャラクター」ではなく、電気的なスピード感を表現するというコンセプトのもとに「電気の

玉になって画面内を跳ねまわる」というスタイルに変更されたのである。
この作品は〈スパーク〉というタイトルで制作されていたが、完成間際になってその商標が取得できない事実が発覚し、ゲー厶フリークでは急遽代案の〈パルスマン〉を正式タイトルとして申請したいきさつがある。

[[IMAGE CAPTION|
▲この時期には制作スタッフも増え、少数精鋭だったゲームフリークが複数による総合力でゲームを作りはじめた最初の作品でもある。
]]

95   第3章  インターミッション

[[IMAGE CAPTION 1|
バザールでござーるのゲー厶でござーる
]]
[[IMAGE CAPTION 2|
PCエンジン用
CD-ROM
♦発売元♦
NEC
ホームエレクトロニクス
♦発売日♦
1996年7月
©NEC CORPORATION 1991.
©NEC Home Electronics, Ltd
1995.
©GAME FREAK INC 1995.
]]
[[HORIZONTAL TEXT|
制作当時に、NEC製品のテレビコマーシャルに使われていた〈バザ〜ルでござ〜る〉というキャラクターをゲーム化したもの。主人公キヤラクターをプレイヤーが直接操作するのではなく、周囲の環境に介入することでゴールまで導いてやるというシステムは“アシストアクション”というジャンルで呼ばれることもある。ゲームフリーク作品では、『マリオとワリオ』もこの流れをくむものである。
]]
ゲー厶がスタ—卜したら、まずプレイヤーはステージの形状を観察し、キャラクターの行動をあらかじめ指示しておく。その後、歩き出したキャラクターはプレイヤーが設定した指示にしたがって行動しながら、出口へ向けて進んでゆく。そのため、この作品はアクションゲー厶のように見えるが、実際にはプレイヤーの操作にアクション性を一切求めていない“疑似アクションゲー厶”なのである。アクションゲー厶というものは、プレイヤーに対して俊敏なボタン操作を要求する。そのため、ゲー厶ファンのなかにもアクションだけは苦手、という意見がときおり聞かれる。こうした状況を、ゲー厶フリークでは常々残念に思っていた。なぜなら、彼らはアクションゲー厶によってゲー厶のおもしろさに目覚め、アクションゲー厶を作ることに、長い間こだわり続けてきたからだ。

第1部  ポケットモンスター  96

けれど、いくら優れたアクションゲー厶を作っても、個々のプレイヤーに反射神経などの能カ差がある以上、それを楽しめる人間と楽しめない人間ができてしまうのは避けられない。ならば「アクションゲー厶が苦手だ」と思っている人にも、アクションの楽しさを感じ取ってもらえるゲー厶はできないものか?そうした考えのもとに作られたのが、このゲー厶なのだった。この作品のキャラクター原案を考案したCMプランナー佐藤雅彦氏との対談で、田尻は次のように語っている。
「ゲー厶センタ—のゲー厶機って、お金を入れてないとぎに、コンピュータが勝手にゲー厶を映してますね。あれってすごくうまくプレイしてて、普通のプレイヤーに、あのプレイのように出来たらいいなって思わせる。なのにただ画面を見てるだけでは面白いとは思わないのは、自分がそのゲー厶をやってないからで、そこの

ところをちよっとだけくつつけてやれば、楽しめるゲー厶が出来るんじやないか--」(『広告批評』ー九九七年一月号より)つまり、田尻がこのゲー厶で目指したのは、アクションゲー厶を華麗にプレイしている気持ちになれる”感覚“だったというわけだ。

[[IMAGE CAPTION|
▲ちなみに、このCMキャラクターを考案した佐藤雅彦氏はプレイステーション用ソフト『I.Q』を考案し、大ヒットさせている。
]]

97  第3章  インターミッション

[[IMAGE CAPTION 1|
青龍伝 BUSHI 〜二人の勇者〜
]]
[[IMAGE CAPTION 2|
スーパーファミコン用
ROMカートリッジ
♦発売元♦
T&E SOFT
♦発売日♦
1997年1月
© 1997 T&E SOFT,Inc. / GAME FREAK Inc.
]]
[[HORIZONTAL TEXT|
日本の古代神話的世界観を題材にしたアクションRPG。ゲームフリークとしては異色の作品ともいえるが、戦闘中の移動方法にグリッド(方眼)の概念を採り入れ、パズル的なおもしろさを実現しているあたりにゲームフリークならではのこだわりが感じられる。フィールドの移動、ダンジョン、戦闘、町での会話など、あらゆる場面に様々な演出がなされ、ゲームを飽きさせない工夫も施されている。
]]

この作品の発想の原点には、デビュー作『クインティ』に登場したキャラクター〈まねっこミミー〉の存在がある。ミミーは、プレイヤ—の動きを真似て鏡の像のような行動をしながら攻撃してくる。プレイヤーが右へ移動すればミミーも向かい合わせで右側へ。左へ移動すれば左側へ歩いてゆく。こうした不可解な動きに最初は戸惑うかもしれないが、それは「自分が動かなければ相手も動かない」ということになるわけで、じつはそれほど怖い相手ではない。つまり『クインティ』は、アクションゲー厶でありながら、ミミーとの戦いだけはゲー厶中に流れる時間をプレイヤーの手で支配することができる。時間を支配できるということは、プレイヤーは自分のペースで、その場その場の局面に対処することができるというわけだ。田尻はこのアイデアを、ひとつの敵キャラク夕—だけで終わらせるには惜しいと感じていた。

第1部  ポケットモンスター  98

そこで、この「ゲー厶中の時間をプレイヤーが支配できる」というアイデアを基本システムにして組み立てたのが、『青龍伝』なのである。ゲー厶フリークでは、下請けの立場でゲー厶を作る場合でも、許される限りの時間と手間をかけ、少しでもいいものを作るよう努力しているという。そのためには、一度決まったアイデァを捨てたり、とぎには前に戻って大幅に作り直すということもする。この作品もそうしたことを繰り返しながら、ようやく三年かかって完成にたどり着くことのできた、なかなか難産なゲー厶だったようだ。それだけでなく、各場面においてパターンの異なる映像表現や演出を積極的に採り入れたため、余計に制作時間がかかってしまったともいう。
また、余談だがこの作品は当初、別のゲー厶メーカーから発売を予定されていたのだが、完成に近づきつつあった作品の方向性が発売元の

意向と折り合わず、結局、発売元からは制作中止の決定が下されてしまった。そこで、ゲー厶フリークでは完成間近の状態で作品を引きあげ、当初の発売元との合議のうえで、あらたに販売権をT&E SOFTに移し、無事に世に出すことができたのである。

[[IMAGE CAPTION|
▲同じスーパーファミコンでありながら『ジェリーボーイ』の頃から格段にグラフィック表現のレベルがあがっていることがわかる。
]]

99  第3章  インターミッション

[[IMAGE CAPTION 1|
クリックメディツク
]]
[[IMAGE CAPTION 2|
プレイステーション用
CD-ROM

♦発売元♦
ソニー・ミュージック
エンタテインメント
♦発売日♦
1999年1月28日

©1999 Sony Music
Entertainment (Japan) Inc.
]]
[[HORIZONTAL TEXT|
フレイヤーは近未来の医師。治療用の潜水艇ごと縮小され、病気にかかった患者の体内に入って患部を探り当てるという、テキストアドベンチャーゲーム。患部にいるバクルス(このゲームにおける新種のウイルス)を持ち帰り、研究室でそれらを合成して新しいバクルスを作り出すという楽しみ方もできる。ゲームのデータを記録するためのメモリーカードを、試験管がわりに利用するという試みが新しい。
]]
この作品は、九〇年代半ば頃から急速に普及しはじめた“インターネット”にヒントを得て考案されている。インタ—ネットにおける情報の迷路は、じっは並列に並べられているのではない。最初に大ぎな情報網があり、その網の各所に散りばめられたタグ(言葉)を選んでいくと、そこからー段深い階層の情報網へと進んでいく。そのなかでタグを選ぶと、またさらに深い階層の情報網へと進んでいくことができる。これを繰り返していくことで、情報の探求者はあふれる情報の海のなかを縦横無尽に歩き回ることができる。そしてこのような構造は、そのまま人体の内部構造にも置き換えることができるのだ。人体の内部(最初の情報網)を渡り歩きながら、各種の臓器(タグ)を選択し、それぞれの臓器の解説(より深い階層の情報網)に潜っていく。これを繰り返していくことで、プレイヤ

第1部  ポケットモンスター  100

——(情報の探求者)は、最終的に細胞レベルにまで入り込んでいくことができるのである。ゲー厶フリークでは、ジャンルを決めてからゲー厶を作ることをしない。出発点となるアイデアを突き詰めていけば、そのアイデアを最大限に活かせるジャンルやテーマは必然性をもつて導き出される。これがゲー厶フリークならではのゲ——厶の作り方なのだ。
さらに、この作品では“メモリーカード”の新しい使い方も提案している。それは、研究室で合成したバクルスを保存しておくために使うというシステムで、つまりメモリカードを医療実験のための“試験管”に見立てているのだ。複数のメモリーカードを使い分けながら遊ぶプレイヤーの姿は、まさに試験管を駆使して実験にいそしむ医師の姿を思わせる。『ポケットモンスタ—』では、学校帰りに子供たちが通信ケーブルでポケモンを交換し合う姿

を想定してゲー厶が作られていった。そしてこの作品でもまた、ゲー厶を遊ぶ人間の姿を想定して、ゲー厶が作られている。
このように、ゲー厶の中身だけではなく、プレイヤーとそのゲー厶との関係性までも含めてデザインするという考え方は、ゲー厶フリークならではの発想といえるだろう。

[[IMAGE CAPTION|
▲治療のために必要なルート以外にも、様々な体内の部位に行くことができる。すべての臓器はもちろん、鼻毛まで見ることができる!
]]
[[TEXT INSIDE THE IMAGE|
ここは、食道の下の部分である、腹部食遒です。上の食道かろおりてきた食べ物は、ここを通って、胃のなかへむかっていきます。

食道から胃に移行する部分のことを、ー般に(ふんもん)とよんでいます。
]]

101  第3章  インターミッション
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