Secrets of Pokemon/Commentary

From Poké Sources
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解説

杉村富生(経済評論家)

私は49歳だが、私たちの世代にとってポケット モンスタ—というものは、どうもよくわからない存在である。事実、97年のテレビ東京のトラブルで、初めてその実態がわかったという程度の認識といったほうがいいかもしれない。どちらにしても遠い国の出来事であることに間違いはなかった。
もちろん、産業界や経済界を見ているものにとっては、例えばトミーの売上げ550億円のうち、ポケモン関連が275億円を占めているとか、永谷園の98年3月期がポケモン関連製品の伸びに支えられ4割経常増益になったということは知っていた。永谷園の場合は、大口の販売ルートを担っていた食品商社の東食が97年に倒産したために、大きなダメージを被っていた。大人の不始末をポケモンが救ったようなものである。
ポケモンの関連市場がさらに拡大しており、それがポケモンを大事に育てていることによってもたらされたということを知り、本当に驚いた。生産から流通、版権管理に至るまで、実に大事にしている。

267  解説

開発やその後の展開に携わっている人は20代や30代の若者が中心である。私は団塊の世代に属しているのだが、彼らはデジタル世代である。デジタル世代とわれわれアナログ世代は、考え方や価値観が根本的に違う。
例えばアナログ世代は女性を前にして、「あなたが好きです」という、これだけで愛の告白は終わりである。
ところがデジタル世代は、「あなたが好きです」といえば、「どれくらい好き?」と女性が聞き返す。
これに対して、「80パーセントくらい」と男性が答え、「残りの20パーセントは嫌いなの?」とさらに女性が問い返す。思いがけない展開に即座に対応できないというのがデジタル世代である。
だから最初から、そういう場面を想定して、「110パーセント愛しています」といって伝える。
このようにあるー定のゾーンを越えた表現をする必要があるらしい。これはアナ口グ世代には理解できない。
ポケモンの開発者は、デジタル世代であるはずだが、その彼らの共通認識が、「ポケモンを愛してほしい」「感性を大切にする」

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というのが意外だった。
最近、物が売れない、ヒット商品がないといわれている。しかし、経済や企業をマクロから見ると、実際に売れている商品はある。ビールではアサヒのスーパードライが驚異的に売り上げを伸ばした。トヨタのハイブリッドカー「シリウス」は当初計画を上回る売れ行きをみせている。「スーパードライ」は新鮮さ、「シリウス」は環境面でのやさしさが受け入れられたのだろう。
ポケモンの開発コンセプトにもつながることだが、いい物をきっちり作って販売する、ユーザーが求めている物を作って提供するということが、ヒットに結びついているのではないだろうか。
物が売れないと嘆く前に、本当にユーザーが欲しがっている物を提供しているのか。日本の経済が悪いとか、先行きに不安があるからとか、ユーザーが財布の紐を締めているからとか、逃げていないか、反省する必要がある。
本書を読んでいると、〃一生懸命〃というキーワードが見えてくる。作者も一生懸命作っているし、子供は一生懸命遊んでいる。それが報われたことがヒットにつながっているのだろう。
今の社会は非競争社会である。一見平等のようで悪平等がはびこっている。努力し

269  解説

た人が報われる社会にならなければ世の中は活性化しない。ポケモンのヒットに、新しい時代の息吹を感じ、すがすがしい気分になるのは私だけだろうか。日本のビジネスマンは、そろそろ企業という呪縛から解き放たれるべき時代に差しかかっているのではないだろうか。
大企業では社内機構のなかですべての部品が揃う。例えばカラーテレビを作るには、何万点という部品が必要だが、そのほとんどを大手メーカーは社内の各部署やグループ企業で調達できる。しかし、部品の製造工程を洗い直し、一番安くて良質なものを全世界から調達するように切り替えれば、2〜3割のコストダウンが可能になるという。ポケモンのオモチャは、部品の調達から生産まで、品質もコストも最適な状況になるようプログラムされ、送り出されている。まさに国際化の最先端を走り、グローバル・スタンダードの固まりのようなものである。ポケモンのヒットは一見メディアミックスに寄ったようにみえるが、実は、日本の製造業が生き残るためのひとつの生き方というか、原形を示しているのではないだろうか。
これからの時代は、いろいろな呪縛から解き放たれ、意思決定も含めて企業がガラス張りのルールを実践する必要がある。
それが、これからの時代の企業やビジネスマンに求められる要素であると思う。