Secrets of Pokemon/Chapter 7: Sharing interest is always the starting point

From Poké Sources
Warning: this chapter has not yet been proofread!
The text of this chapter was created through OCR. This process was not entirely accurate. If all pages of this chapter have been proofread, please change the tag to {{Chapter proofread|yes}}.
This chapter has not received a translation yet.
If all pages of this chapter have been translated, please change the tag to {{Chapter translated|yes}}.

第7章

面白さを共有できるかが
いつも出発点

238

その国の好みは文化だから受け入れる。妥協ではない

世界に広がるポケモン
98年4月16日、ポケモンのアニメが再開された。ほぼ4か月ぶりの放送再開である。放送が中止されていた期間、子供たちはアニメを待っていた。
そのことを裏づけるように、テレビ東京にはアニメ再開を求める電話が多数寄せられたという。
アニメ中止期間中にも、『コロコロコミック』の副編集長で98年3月16日から新たにキャラクタ—企画室室長を兼務している久保雅一は、3回ほどアメリカへ出張している。

239  面白さを共有できるかがいつも出発点

アメリカでのポケモン放送に向けて、調整をはかっていたのだが、契約には細心の注意を払う必要があったという。アメリカでどういう展開になるのかを確認したうえで、日本で承認作業を行ないたいという希望があった。例えばシナリオの翻訳や解釈、ポケモンの持つ世界観などが、できるだけ正確に伝わるように、細かい部分までチェックをしていき、それを日本に持ち帰り関係各所に承認をとっていく。151種類のモンスタ—の名前は英語ではどうなるのか、声優は誰を起用するのか、アニメと同時にゲームソフトやカードゲームを販売していくことになるが、その場合の販売窓口は、翻訳は、といった煩雑なことが大波のように押し寄せてくる。日本のアニメは技術的にも内容からいっても完成度が高く、世界各国に輸出されている。ところが、同じアニメでも国や民族によって人気の出る作品が違う。
サッカーが国民的なスポーツで人気のあるスペインでは、アニメの『ドラゴンボール』が大人気で、放送時間には街から子

240

供の姿が消えるほどだとか。みんなテレビに釘づけになり、スペイン語の吹き替えの『ドラゴンボール』を食い入るように見ているとい、つ。
子供にとつてそれがどこで製作されたアニメであるかは知らないし、知りたいとは思わない。アニメそのものの世界に浸り、楽しむのである。
「ドラえもん」は、アジア地区で圧倒的な人気がある。大きな頭の3頭身で、愛敬のある顔のキャラクタ—が、つぎつぎと便利なものを取り出していくという夢のあるストーリーが、子供の想像力を刺激するのだろう。アジアのほとんどの国で「ドラえもん」は圧倒的な人気を誇っているが、フィリピンなど政情が不安定な一部の国ではあまり人気がなく、むしろ激しいバトルを展開するようなアニメが人気なのは、子供の置かれた状況を示している結果なのだろうか。
ポケモンのアニメは、アメリカ、ヨーロッパ、香港、台湾、韓国などで放送されることが決まっているが、国によって、キ

241  面白さを共有できるかがいつも出発点

ヤラクタ—の人気にバラツキが出ることが予想される。アメリカでは子供っぽい(チャイルディッシュ)ものは、あまり支持されない。
アメリカでヒットした映画のキャラクター『ミュータント忍者タ—トルズ』や、『キャベツ畑人形』などは、日本人が見てもあまりかわいいとは思えない。ところが、アメリカでは支持される。
というように、アメリカでは「クール」が、ヒットのキーワ—ドになっている。『ポケモン』は内容が日本的なのではないかという指摘もあるため、ある程度「クール」になるような、演出をしていく必要がある。
アメリカでの展開については、これに加えて「セイフティ—」もポイントになる。
アメリカは、日本以上に子供向けのアニメの放送基準が厳しい。暴力、性的な表現などは当然除外されるとして、映像表現や映像処理などもアメリカの基準に照らし合わせたうえで製作

242

[[IMAGE CAPTION|
ポケットモンスターニャース
額に小判がついている化け猫ポケモン。猫らしく"ねこにこばん〃という技を使ったりする。アニメの中では唯一言葉を話している
]]

--- MAIN TEXT ---
していく。石原はいう。
「アメリカでは二ヤースが結構うけるんです。ちよつと不気味な感じとか」
アメリカ人にビデオを見せた感触から、「ニャース」人気が予想されている。「二ヤース」は、「ピカチュウ」を脅かす存在として登場回数も多いうえに、比較的「クール」な設定のキヤラクタ—なので、アメリカでブレイクする可能性が高い。製作者側としては、「ピカチュウ」をワールドワイドなキヤラクタ—として展開する予定のため、「ピカチュウ」の名前だけは世界共通にしてある。「二ヤース」はアメリカナイズされた名前で、登場することになる。アメリカ版「二ヤース」と「PIKACHU」の人気争いが起こるかもしれない。アジア方面のアニメ展開に関しては、小学館プロダクションとJR東日本企画が共同で現地との交渉にあたっている。アジアは北京語が共通言語として圧倒的なシェアをしめているので、そこに対するアプローチとして、北京語への翻訳作業が進んで

243  面白さを共有できるかがいつも出発点

いる。
アジアでの展開も、アメリカやヨーロッパと同じようにタイトルは「POKÉMON」で統一、この音に漢字を当てはめる。ピカチュウの名前はそのままなので、これも音に当たる漢字を当てることにしている。その特性から考えた「雷鼠」というような意味をくんだ表記は、原則的にはしない方針で進んでいる。「ドラえもん」がアジアで受け入れられている状況から考えると、おそらく「ピカチュウ」が人気になることが予想されており、そうしたことからも名前は音を当てることで、世界統一をはかっていく方向だ。
「ポケモン」「ピカチュウ」ともに、世界共通の「音」で展開する。「音」は、その国にとっては、無意味な言葉である。しかし無意味でも、違和感をうまく残しつつ定着していけばそれで成功である。
今までのアニメがやっていなかった「音」のもつ違和感を戦略的に使っていくというのが、「ポケモン」の世界進出の第一

244

歩といえる。
世界各国で吹き替えで放送されたときに違うものになってしまわないように、担当者が現地スタッフに対してその世界観を説明することを怠らない。原作者の意向を尊重し世界観を変えない。このことが守られている限りにおいてポケモンが変容することはないだろう。
また、アニメのスター卜にあわせて、ゲームソフト、カードゲームなどの展開も予定されている。
ただ単にアニメを放送して終わりというのではなく、カードゲームや関連のオモチャなどを包括した形での展開をやっていく。そのためには、版権など権利関係をクリアにする必要があったが、これは Nintendo of America が、バジエットを背負って展開することになった。すでに英語版、ドイツ語版、フランス語版のゲーム製作が進行しており、アニメスタ—卜に向けての発売準備が進んでいる。カードゲームに関しては、アニメ用のキャラクタ—の名前な

245  面白さを共有できるかがいつも出発点

[[IMAGE CAPTION|
ポケットモンスター
????
夏休みのポケモン映画とともに、アニメに登場するスペシャルポケモン。名前やどんなポケモンかは、まだ謎に包まれている
]]

--- MAIN TEXT ---
どが決定してから製作を始める予定だ。
アニメを中心にした総合的なポケモンプロジェクトが、世界に向けて始まろうとしている。
映画になるポケモン
夏休みの映画館の巨大スクリーンに、ついにポケモンが登場する。
現在アニメのスタッフを中心に、劇場用のオリジナルアニメの製作が進められている。上映されるのは、『ミュウツーの逆襲』と『ピカチュウのなつやすみ』の2本。
アニメの監督で、映画でも総監督を務める湯山邦彦は、「ポケモンの魅力はーーっある。かっこよさとかわいさだ」と解釈している。そこから発想されたのが、2本の映画である。「ミュウツー」は150番目のモンスタ—で人気があるが、ア二メでは登場せず映画でしか登場しないキャラクター。『ミュウッーの逆襲』は、70分程度の長さの映画で、同時上映

246

[[IMAGE CAPTION|
ポケットモンスターミュウツー
モンスターナンバー150番の遺伝子ポケモン。ほかのポケモンと違い、遺伝子研究から生まれた。夏の映画の主役に選ばれている
]]

--- MAIN TEXT ---
の『ピカチュウのなつやすみ』は、人気タレントの佐藤藍子のナレーションで、テレビシリーズでは見られないピカチュウの生態をミュージッククリップ風に見せていく。
97年『もののけ姫』で200億円の配収を記録した東宝が、ポケモンの配給をすることになつている。宣伝にかける予算や映画館の押さえ方が強力で、その意気込みのすごさが感じられる。
ロングセラーのキャラクタ—、例えば「サザエさん」や「ちびまる子ちゃん」はテレビシリーズではー話完結になっている。最終回までひっぱっていって終わるのではなく、あくまでもー話で完結している。一方ポケモンは、主人公のサトシがポケモンマスタ—を目指しているので、毎週「続く」で終わっている。テレビと映画両方のプロデューサーである小学館プロダクションの盛は、
「アニメはサトシが世界一のポケモンマスターを目指しているという設定なので、モンスタ—をゲットしているうちはずっと

247  面白さを共有できるかがいつも出発点

続いていくわけです。世界一のポケモンマスターを目指しているという状態で終わるかもしれず、そうなると長い長いー話完結と同じになります。アニメでも映画でも、ポケモンを息の長いキャラクタ—に育てるというのが目的なので、ダラダラしないようにどうやったらうまくやれるか考えています」
という。
映像は情報量が多く、一般に対する影響力が強大なので、「始める」「続ける」「終わる」というタイミングを失敗すると、キャラクタ—が死んでしまう。この見極めが今後のポケモンの展開を左右する鍵になりそうである。
自然発生したラジオの役割
アニメと映画でニャースの声を担当している女優の犬山犬子が、ニッポン放送でDJをしていたラジオ番組でポケモンについておしやべりをした。ちよつとしたアテレコのこぼれ話をフリートークで語っただけなのに、翌週リスナーからたくさんの

248

ハガキが届いた。
「来週のポケモンの予告をちらっと教えてください」「ピカチュウが好きなんですが、面白いピカチュウグッズを知ってる人がいたら教えてください」こうしたハガキを紹介しているうちに、ポケモンに関する話が3分から5分と長くなり、とうとう「ポケモン」のコーナーができてしまった。ハガキの量も増えて、ラジオ番組がポケモンのファンクラブの時間という状況になり、ついに番組として独立、『ポケモンアワー』という30分番組がスタ—卜した。ゲームやアニメは幼稚園児から小学生がメインだったが、ラジオ番組に投書してくるのは中学生から高校生にかけての若いリスナー。今までのポケモンの展開からすると、一番層の薄いはずの世代が聞いている。こうしてポケモンのラジオ番組が自然発生的にスタ—卜した。
また、雑誌やテレビに加えラジオという媒体が加わって、中学生、高校生という新しいタ—ゲットが開拓できたのである。

249  面白さを共有できるかがいつも出発点

開かれた世界観の可能性

新しいソフトの展開
ゲームボーイのソフトである『ポケット モンスタ—』は、外に開かれたソフトである。登場する151種類のキャラクタ—すべてに、特徴と性格がつけられているだけでなく、戸籍ともいうべきデータも作られている。
例えば幻のモンスタ—といわれ、発売されたあとからユーザ—によって偶然発見された151番目のポケモンである「ミュウ」は南アメリカに生息し、絶滅したはずといった具合だ。キヤラクターには特性を書いた履歴書と身体データまでついてい

250

る。
しかも、どういうところを歩いて、どんなところに住んでいるモンスタ—をゲットするのか、その街や森はどういう名前のどういうところなのか、地図までしっかりできている。ゲームボーイのあの小さな画面のなかに存在する仮想の街が、あたかも実感できるような奥行のあるひとつの世界を構築している。街や森があり、151種類のモンスタ—がそこに生息し成長している。その世界がしっかりできているために、世界さえ変えなければどんなものにも転用できる。
だからこそ外に展開できるのだ。
ゲームから、カードゲーム、アニメ、そして関連商品と展開してきても、そこには共通する世界観がある。表現手段が違うだけで、表現する世界は同じであるのがポケモンの強みになつているのではないか。
今ユーザーの関心事は、新しいソフトの発売である。この6月頃には『イエロー』のソフトが発売される予定にな

251  面白さを共有できるかがいつも出発点

っている。これは正式の発売というのではなくて、『青』の場合と同じように特別版ということで発売される。『イエロー』というのは、ピカチュウを連想させる色だ。アニメのスタ—卜以降、ピカチュウ人気はものすごく、ポケモンの認知度を上げるのに貢献している。また、小学生の男の子が中心だったポケモンファンを、女の子、ひいては大人にまで広げたのもピカチュウがあったればこそ。今までは数々のピカチュウ関連商品が発売されているが、こんどは本家本元のゲームボ—イ用のソフトが作られたというわけだ。
『イエロー』は基本的には『青』がベースになっていて、違うのは主人公が初めからピカチュウを連れて歩くという設定でス夕—卜するという点。常にピカチュウと一緒に歩いているようなシチュエーションで進行する。ピカチュウが最初から登場していることで、アニメを見ていた子供が、今度はアニメの主人公サトシとなってゲームをするような感覚が味わえる。アニメのポケモンの世界を追体験できるソフト、という感じだろうか。

252

64への可能性
新しいソフトについては、『NINTENDO64』用のソフ卜の発売も発表されている。『64』に移植されるようになると、今までモノクロだったゲームを、3Dの迫力あるカラーで体験することができる。『NINTENDO64』は、〃従来にない楽しみを持つゲームを実現させるため〃誕生した。しかし発売当初ソフトが数種類しかなく、しかも外国のソフトハウスの開発したソフトが中心だったので普及に時間がかかってスタ—卜時にやや出遅れてしまった。
この『64』に向けて、ポケモンソフトが発売される。発売元の任天堂では、かつてファミコンのソフトのキャラク夕—をゲームボーイ用に転用した例はある。大ヒットしたファミコンソフトの『スーパーマリオ』のキャラを『ドクタ—マリォ』という名称で発売した。これはキャラクターは同じでも、ゲームの内容が違う。ファミコンではACTだったが、ゲーム

253  面白さを共有できるかがいつも出発点

ボーイでは、パズルゲームになっている。ゲームボーイのソフ卜の『64』バージョンが出るというのは、初めてのこと。今回発売が予定されている『64』のポケモンソフトは3種類ある。『ポケモンスナップ』『ポケモンスタジアム』『ピカチュウげんきでちゅう』がそれ。
『ポケモンスタジアム』というのは、ゲームボーイでやったような対戦をコンピュータ—グラフィックを駆使した迫力あるグラフィクスで体験できるというもの。すでに決まっている「あわ」とか「けたぐり」といったワザのなかから、ゲームをする人が選びそれを使ってモンスタ—と対戦する。ワザを使うときの形や、それが相手に的中するときの体勢やダメージが、カラ—の迫力ある立体画像で迫ってくる。例えばリザードンというモンスタ—が火を吹くといった映像が、画面から飛び出してくるような迫力で見られるようになる。
『ポケモンスナップ』というのは、画面に登場するコンピュー夕—グラフィックのポケモンを、自分の好きな角度から写真に

254

とれるというソフト。最近流行のプリクラやデジタルカメラによる画像処理といった写真の楽しみを、ポケモンのキャラクターを使ったゲームにしてある。ゲームボーイではポケモン図鑑を完成させるというコレクションの要素があったが、それを進めた形でモンスタ—の姿を上からや左右どこからでも見られるようになっている。
『ピカチュウげんきでちゅう』というのは、音声認識プログラムが組み込まれているソフトである。プレーヤーのしゃべったことに反応して、ピカチュウがすねたり喜んだりしながら互いに心を通わせていく。声のかけ方によって性格のいいピカチュウになったり、ちよつとヒネたピカチュウになったりという、『たまごっち』の延長の〃育てゲー〃的な要素が多分に含まれているソフトである。ゲームボーイのソフトでも、モンスタ—が「進化」しているが、その「進化」を、ゲームをする人が参加する形で進めている。マイクを通じて音声信号が入り、それをくみとるためのチップが搭載されていて、音声を認識して、

255  面白さを共有できるかがいつも出発点

それに応じてキャラクターが変化する。すでにパソコンでは商品化されているものがあるが、ゲーム機ではおそらく世界初の技術であろう。
自分の声でゲームのなかのキャラクタ—とコミュニケーションできたり、キャラクタ—をセーブできるということは、驚きだ。他のすべての関連商品にも共通することだが、あくまでも最初のポケモンの世界を壊さず、『64』というハードの特性を生かした形で展開できるように開発されている。ユーザーとの直接的な接触の場をつくろうテレビ東京では『64マリオスタジアム』という番組を放送している。そのタイトルの通り、任天堂のゲームソフトを使って子供たちがゲームをしたりクイズをするという構成の番組だ。子供たちは二人一組でチームを組み、3チームが対戦する。この番組内で、『ポケモンリーグ』というゲームのトーナメントがスタ—卜し、子供たちが熱戦を繰り広げている。

256

夏休みには全国の子供を対象に全国8か所から9か所で『ポケモンリーグ』が開催される予定で、ポケモンを介して子供たちが真剣に対戦する姿が見られることになる。
『ポケモンリーグ』は、カードゲームのほか、サイコロゲーム、ポケモンスタジアム、『ポケモン言えるかな?』という151匹のモンスタ—の名前が織り込まれた歌をちやんと歌えるかといった、ポケモンにまっわる幅広いジャンルで競わせるものだ。会場にはポケモンが好きで、いつも遊んでいるという共通認識を持った子供が集まるので、新しいコミュニケーションが形成される場となることだろう。
また東京八重洲に「ポケモンセンタ—トウキョー」がオープン。ゲームの中では、モンスタ—がケガをしたり、パワーが落ちてきたときにはポケモンセンタ—にもっていくという設定になっている。
新しくできた「ポケモンセンタ—トウキョー」は、ポケモングッズの専門ショップ。74坪の店内では、さまざまなカテゴリ

257  面白さを共有できるかがいつも出発点

—のポケモングッズが販売されている。例えばポケモンの扇子を買いたいと思ったときに、書店に行くのか、オモチャ屋さんに行くのか迷ったとする。そんなときも、ここに来れば大抵のポケモングッズが揃う。また、商品販売情報がPOSで瞬時に集計、整理され、週に1度メーカーに送られる。さらに、発売予定商品をテスト販売したり、ユーザーのモニタ—調査を行なう予定もある。店内のデザインは、できる限りゲームの中のポケモンセンタ—のイメージを取り入れて作られている。この場所に子供たちがくることで、あたかも自分がゲームを実体験したかのような感覚を味わうことができる。これによつて、ポケモンの世界観を一層明確にアピールすることが可能になるのである。

258

情報を共有することが成功の鍵

情報を共有し管理する
幻のモンスタ—「ミュウ」が発見されたとき、その情報はイ ンタ—ネットを通じて紹介された。パソコンを通じた情報ネッ トワーク化は、静かに確実に広がっている。
ポケモンのホームページも数多く開設されているが、中には 小学生しかアクセスできない会議室などもあるという。 コンピュータ—ネットワークは、情報をいち早く入手し共有 するには最適な手段といえる。
ポケモンは驚異的なスピードで、しかも担当者が思いもよら

259  面白さを共有できるかがいつも出発点

なかった分野にまで広がりを見せているために、ややもすると進行状況の伝達がうまくいかなかったり、情報が途絶えてしまう事故が起きる可能性がある。そこで、クリーチャーズ、ゲームフリーク、任天堂、コロコロコミック編集部など主要なスタッフは、専用回線を設けて情報の共有化をはかっている。掲示板と電子メールを使って、二重に情報共有が行なわれており、ネット上で会議を行なうことももちろん可能だ。サーバーに直接電話してログインするので、今現在誰がなにをやっているかという状況がしっかりと把握できる。メンテナンスはクリーチャーズが行なっていて、リアルタイムで情報を共有化できるようになっている。メディアミックスを行なうときに一番問題になるのが、情報の共有化だ。
直接会わなくても情報を同時に把握することができれば、それぞれがより広範な動きを有効に行なうことができるのではないか。こうしたネットワークを構築し、常にメンテナンスして新しい情報を入れていることが、ポケモンビジネスの拡大を支

260

えているのである。

金・銀ソフトの発売
もうすぐ、もうすぐといわれながら、延々と発売が先送りになっているのが、『ポケット モンスタ—金・銀』である。『赤・緑』の開発には6年という年月がかかり、ソフトにはポケモンに対する思いが凝縮された状態で込められている。ゲームとしてのポケモンの世界を次のバージョンでどう発展させていくかを考えると、製作者・田尻智ならずとも立ち止まってしまうかもしれない。
一度完成したものをもとに、また新しいものを作り出していくことは、もしかすると、まったく新しいものを作り出すことよりも難しいのではないか。モンスタ—の数をもっと増やして対戦させるだけならば、簡単かもしれない。しかし、単純にモンスタ—を増やすだけなら新しいソフトとはいえないだろう。ゲームフリークの社長秘書の川上直子はその点に関して、

261  面白さを共有できるかがいつも出発点

「田尻は金・銀のソフトに対しては、今完成されている世界とはもっと違うものを考えているような気がします。もっと、違う世界。よくわかりませんが、神様っぽいもののような気がします。田尻はポケモンに息吹を吹き込む神様ですからね」神様という言葉を使って、田尻の作り出そうという世界を表現している。
神が世界を創造し、そして人間を作ったといわれている。そして神様から作り出された人間が、また独自の世界を作り出そうとしてもがいている。世界は奥行きが深く、空間はどこまでも広く、さまざまの要素が絡み合って形成されている。ー度作り出してしまった世界は、もしかするとその内側からしか変容できないのではないだろうか。この地球という世界がそうであるように、外からまた新たなる世界を創造することを拒否するのではないか。
「『金・銀』の後に究極のポケモンが今後シリーズで出てくることになるのか、結局出ないのか、それについては何ともいえ

262

ないんです」
川上がこう続けた。

無欲であることからスタ—卜した

ポケモンが世の中に出てから、丸2年の月日が流れた。初めは小さなゲームソフトという〃点〃であったが、それが急激に広がり果てしない〃面〃を形成している。その面は、ゲーム、カード、アニメと微妙に違う世界が重なって、それがまた次の面を形成していくという連鎖を起こし、広がっていく。そして今や関連商品を含めて、4000億円という巨大な市場を形成するまでに成長している。開発に6年もの時間がかかり、任天堂では死んだも同然の扱いになっていたのが、今となっては荒唐無稽の笑い話のようになっている。
ポケモンはメディアミックスの最大の成功例だといわれている。

263  面白さを共有できるかがいつも出発点

しかし、任天堂の川口はそれを否定する。ポケットモンスターというゲームを早く完成させて、とにかく一つの商品として世に中に出して、たくさんの人に買ってもらおう。ただそのことしか考えていなかった。
「無欲だった」
と言い切る。無欲というより、戦略的に仕掛けるという意識がなかったということだ。
クリーチャーズの石原も、最初はメディアミツクスを意識したことはなかったと言い切る。
結果的にメディアミックスになったのは、商品の完成度が高かったこと、そしてかかわった人がどの人も、面白いゲームだと感じて、その思いを共有したからこそだった。これが数ある仕事のなかのひとつで、戦略をたて機械的につないでいったものならば、これほどの増殖はしなかったかもしれない。『コロコロコミック』は、ポケモンのメディアミックスの推進において中心的な役割を担ってきた。同時にポケモンによって

264

120万から200万部という部数の伸びを記録した。ポケモンが今後どういうかたちで広がっていくのかは、わからない。
子供たちが世代交代していくだけで、そのまま引き続き愛されるキャラクタ—として生き残っていくのかは、神様にしかわからない。
しかし、1990年代最大のキャラクターのひとつであることは、間違いない。
ポケモンは、それを愛する人々によって一層輝きを増し、そして受け継がれていくだろう。これからも。
そして、未来の消費者の中核である子供たちをワクワクさせー夢中にさせるポケモンを創った人たちの〃面白くていいものを作る〃という思いも、どこかで受け継がれてほしい。それは、きっとオモチャに限らず、いい商品が将来にわたって送り出される原動力となるだろうから。