Secrets of Pokemon/Chapter 6: Cramming in fads is a recipe for failure

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第6章

流行り物の詰め込みは
失敗のもと

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メーカー名よりも商品を印象づける
クリーチャーズの会議室で開催される版権会議には、毎週100件近い、ときにはそれを超えるキャラクタ—を使用した商品企画書が提出される。
版権管理を行なっている小学館プロダクションには、すでに商品化を行なっている企業の連絡先リストがあるが、企業数にして40社強、商品カテゴリーで200種強、そして商品アイテム数は600とも800ともいわれ、その数は毎週増加している。キャラクタ—と商品がうまく嚙み合ってブレイクしたものや、期待されたわりにはそれほど伸びなかったものなどもある。大ヒットした商品は、どのように企画され商品化されたのだろうか。

189  流行り物の詰め込みは失敗のもと

●永谷園

キャラクターは新規参入の突破口
97年7月、食品業界があっと驚く出来事が起こった。大手スーパーの販売数量を表示するPOSの端末が、前代未聞のデータを表示していたのである。
「まさか......」
S&Bも、ハウスも、大塚も、担当者は自分の目を疑ったに違いない。
なんとレトルトカレーの販売数量でトップをとったのが、永谷園の『ポケモンカレー』だったのである。

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[[IMAGE CAPTION|
ポケモンカレー(永谷園)
ポケモンキャラ(ピカチュウ、カモネギ、コイキング)を前面に扌甲し出したノヾツケージ。違う絵柄もあり。ソーセージ・コーン入り。130円
]]

--- MAIN TEXT ---
レトルトカレーは長期保存できる食材として、1969年に登場した。
日本初のレトルトカレーは、「3分間待つのだぞ」で有名な大塚の『ボンカレー』である。現在では20社以上が50種類にもおよぶレトルトカレーを発売している。
最近のトップブランドは、ハウス『ククレカレー』だった。そのククレカレーの販売量のうえに、永谷園のポケモンカレーがあったのである。しかも、ポケモンカレーが発売されたのは、97年5月のこと。わずか2か月でトップになった。8月も引き続きトップをとり、秋口からは少し順位が下がったとはいうものの、上位10ブランドには、必ずランキングされるほどの人気ブランドになった。
これには当の永谷園も驚きを隠せない、といった状況だ。「ウチはこれまで、2回もレトルトカレーに進出して、そのたびに失敗しているんですよ」
と、広報課の斎藤公一がいう。

191  流行り物の詰め込みは失敗のもと

[[IMAGE CAPTION|
ポケモンカレー(永谷園)
ポケモンカレーのビーフ・コーン入りパッケージ。こちらはピカチュウ、ピッピ、ライチュウをデザイン。違う絵柄もあり。130円
]]

--- MAIN TEXT ---
永谷園はどうしても、歌舞伎幕模様のお茶漬けのりのイメージが強い。
消費者にとっては、「味ひとすじ」の永谷園なのである。食品は多分に感覚に左右される商品なので、お茶漬のりとカレーはどうしても結びつかない。大人向けのカレーやマガジンハウスの雑誌『タ—ザン』とタイアップしたタ—ザンカレーを発売したこともあったが、うまくいかなかった。やはり、永谷園のイメージではカレーは無理なのか。
そこでほんの少し、方向を変えて、子供向けカレー市場に参入を決めた。
しかし、そのまま永谷園のカレーで販売したのでは、大人向けカレーの二の舞になる。
そこで、子供に人気のキャラクタ—がパッケージに印刷されたカレーが市場に投入された。
『ドラえもんカレー』『それいけ/アンパンマンカレー』がそれである。発売は1987年のことだった。この子供向けカレ

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—は爆発的とはいかないものの、『ドラえもんカレー』は小学生に、『アンパンマン』は、それより小さい子供に支持されてコンスタントに売れている。パッケージを見ただけでは、どこのメーカーの製品かわからないほど、『ドラえもん』の顔が大きく印刷されている。
キャラクタ—のイメージを強烈に打ち出すことで、メーカーのイメージを払拭しているといえるほどだ。
『ドラえもん』を支持する層は、永谷園のカレーではなく『ドラえもん』のカレーを買う。
キャラクタ—は、その会社にとって不得意な分野や新しい分野に参入するときには、突破口の役割をはたすのではないか。キャラクタ—のもつイメージで、そのキャラクタ—を支持する年代をしっかりキャッチできる。

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子供商品は母親をつかまえる

世界観のイメージしやすいキャラクタ—を選べこの子供向けカレー市場に向けて投入されたのが、『ポケモンカレー』である。
『ドラえもんカレー』『アンパンマンカレー』とも、発売から10年近くが経過している。このーーつの商品は、爆発的売れ行きを示すわけではないが、かといって販売量が落ちるわけでもなくコンスタントに売れ続けている。
購入する子供が成長して卒業しても、次の年代にもその人気が引き継がれている。

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子供が小さい場合は、最終的な購入決定権は母親にある。子供がいくらほしがったとしても、母親が拒否したら購入には結びっかない。商品の品質はもちろんのこと、キャラクタ—も、母親が安心できるものでなければ買わない。
『ドラえもん』や『アンパンマン』のもつ、ほのぼのとした雰囲気と子供の想像力をかきたてる夢のあるイメージが、商品購入のモチベーションになっているのである。
対象年代に対して世界観のイメージしやすいキャラクタ—を選定する、これがポイントになる。
『ポケモン』に関しては、永谷園が自ら積極的にキャラクタ—使用を求めたわけではなかった。たまたま『ポケモン』のアニメ化に際して、スポンサーを探していたJR東日本企画が、子供をタ—ゲットにしたキャラクターとして永谷園に提案したのが『ポケモン』だったのである。子供向けカレーを積極的に展開している永谷園なら、『ドラえもん』に続くキャラクターを提案すればもしかすると賛同してもらえるのではないかという

195  流行り物の詰め込みは失敗のもと

読みがあったのだろう。
永谷園では、パッケージに関しては開発部が担当している。開発2課の係長・石井浩がポケモンを提案されたときの印象は、
「そういえばこんなオモチャがあったなあ」
という程度だった。
アニメ化は決定しているものの、具体的に内容やストーり一が決まっていたわけではない。しかも151種類のモンスタ—のなかで、どれをメインキャラクタ—にするかも決まっていない状況だった。決まっていたのは、キャラクタ—の版権使用の条件が、アニメをスポンサードするということだけだった。しかし、アニメの全編を流れているのが、モンスタ—との出会いによって主人公が成長してゆくというテーマで、しかもモンスタ—と対戦しても絶対に死なないという。こうした作品全体に流れるやさしさが、子供にも大人にも受け入れられるのではないかと考え、永谷園ではキャラクタ—使用を決定した。そ

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の時点では、大ヒツト商品になろうとは思ってもいなかった。キャラクタ—商品を製作するにあたっては、どのモンスタ—を使うか、それをどうパッケージにおとすか、どれくらいの大きさに使用するか、プレミアムをつける場合のコレクションの魅力をどうするかなど、さまざまな条件をクリアする必要がある。
検討の結果、キャラクターはテレビでの出番が多い「ピカチユウ」で行くことに決まった。
「ピカチュウ」は今ほどの人気はなかったが、あどけない可愛らしさがあり、子供はもちろん、母親にうけるのではないかと判断されたのである。

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男女にうける商品は長寿になる可能性をもっている

子供向け商品にとっておまけは不滅だ
パッケージのデザインは、売場での広告効果と楽しさを考えて2パタ—ン用意した。商品がビ—フカレーとソーセージカレ—の2種類なのでデザイン違いとあわせて合計4種類の商品が売場に並んでいる。
商品の対象が5歳から9歳なので、それを意識して永谷園用の原画をわざわざ書き起こしてもらっている。アニメの絵柄をもとにして、レトルトカレーのパッケージにふさわしい、おいしさと楽しさが伝わるデザインとした。

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キャラクターの商品展開にとって欠かせないのが、プレミアムだ。
子供は何かを収集するのが、非常に好きだ。
この子供の、コレクション願望を刺激するおまけを開発するのが、もう一つのポイントだった。
『ポケモン』は、キャラクタ—が151種類もあるのでコレクション性は十分である。そこでカレーには、80種類のシールをおまけとしてつけることが決まった。普通のカラー印刷のシールの他に、アタリの意味合いがあるシルバーのシールと大当たりのホログラフィーの光るシールを作った。このおまけが人気を呼んだ。
アニメが始まったばかりの頃は、購入者の中心が小学校低学年の男子。ポケモンは、7対3で男の子に人気のキャラクタ—だった。ところが、放送開始後ピカチュウ人気が高まってくると、女の子の購入がふえてきた。発売から4か月後の9月には、男女の割合が6対4に、年末には5対5の割合になっている。

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これは他の商品にも共通しているのだが、最初は小学生の男の子がコアタ—ゲツトだったが、アニメ以降は女の子もタ—ゲッ卜に入ってきて市場として広がりを見せているのである。キャラクター商品は発売後急激に売上げが伸びて、あっという間にピークを迎えると、瞬く間に下降するものもある。まさに短期商品で、売れるときに一気に売り切らないとブームが去ってしまう。『ポケモンカレー』も当初、短期キャラクター的な動きをした。発売後瞬く間にピークとも思える販売量を記録したからである。ところがその後の動きをみると、販売量が急激に落ちることはなく、現在までコンスタントに売れている。短期キャラクターから、中期キャラクタ—の段階にさしかかつているといってもいいような動きを示している。『ドラえもんカレー』や『アンパンマンカレー』は、発売以来10年を経過しても一定の量がコンスタントに売れる長期のキャラクタ—になっている。このままいくと『ポケモン』も長期キャラクタ—になる可能性も見えてきているのではないか。

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たかがおまけ、されどおまけ

新しい切り口を見つければ、商品は動くカレーとほぼ同時に、『ポケモンふりかけ』も発売している。おむすび用も含めたふりかけ市場は約400億円といわれている。トップメーカ—は永谷園と丸美屋の2社で、それぞれシエアが22〜23%で推移、トップをとったりとられたりしている。
ふりかけは新しい切り口が出ると、販売量が目に見えて増える商品といわれる。
キャラクター、おまけ、容器などに新しいものが出るとそれ

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[[IMAGE CAPTION|
ポケモンふりかけ(永谷園)
カレー同様、ポケモンキャラをデザインした楽しいパッケージ。おまけはポケモンミニモデノレ。さけのほか、おかかもあり。130円
]]

--- MAIN TEXT ---
だけで、市場規模が拡大する。米離れが加速しているといわれるが、日本の主食はまだまだ米。ふりかけはご飯の友なので、それだけ動きが早いということであろう。
ここ何年もシェアに変動がなかったふりかけ市場に、大激震が起こった。なんと、永谷園のシェアが瞬く間に数ポイント上昇し、圧倒的なトップシェアを獲得したのだ。この販売量増加の立役者が、『ポケモンふりかけ』である。ふりかけの中身が変わったわけではない。ヒットの要因は、「ポケモンミニモデル」という名称のおまけである。箱の中にふりかけ5袋と大きさ2センチほどのポケモンの立体ミニチュアモデルが一つ入っている。
これが、子供の心をとらえた。。ハツケージには、「全ポケモンがせいぞろい・ミニモデル1コ入り」と表示され、イメージ写真も印刷されている。151種類に人気のピカチュウなど、ポーズの違うものも含めて156種類のミニチュアを用意した。しかも、通常の緑色バージョンに加えて、アタリの感覚で金

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粉入りのミニチュアも混ぜた。大人の感覚では、普通の色よりも金粉入りのほうがアタリという気がするが、子供にとっては、自分の好きなキャラクタ—が出てきたときがアタリ。ポケモンのキャラクタ—は、子供によって好きなポケモンがそれぞれ違うので、この辺りが人気が衰えない要因の一つになっているのかもしれない。
「ポケモンふりかけ」は、食糧新聞が選ぶ97年度ヒット大賞を受賞した。

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子供のうちから将来の消費者を育ててゆく

ローマ字で表記された社名
『ポケモンカレー』『ポケモンふりかけ』『ポケモンホットケー キ』といった一連のポケモンキャラクタ—商品のパ ッケージに は、社名の永谷園はローマ字で「NAGATANIEN」と表 示されている。一瞬見ただけではどこの製品かわからない。 ところが、ポケモン商品で唯一「味ひとすじ 永谷園」とい う社名がパッケージに表示されているものがある。
『ポケモン茶づけ』がそれ。
パッケージ全体は黄色がベースになっており、中央にピカチ

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ユウが両手を広げて笑っているイラストと、その下にサブキヤラクターが描かれている。ところが、パッケージの右上には、しっかりと「永谷園」の墨文字のようなロゴが印刷されている。これこそ、お茶漬けのりに対する永谷園のこだわり。他のポケモン商品とは違った存在感が表われている。これは、直接の購買者である母親に対して信頼感を与えるのと同時に、今まで培ってきた商品哲学の表現の意味もこめられている。それにもうひとつ、「お茶漬けなら永谷園」というイメージを子供のうちから定着させて、将来の消費者を確保しようという考えも根底にある。
永谷園では、キャラクタ—商品としては初めて、『ポケモン茶づけ』のテレビコマーシャルを、98年4月末から開始した。キャラクタ—使用商品は、番組のスポンサードが条件になっており、番組自体がコマーシャルだという考えから、キャラクタ—商品のCFはやったことがなかった。今回初めて、コマーシャルに踏み切ったのにはわけがある。

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97年に10代後半から20代の男性をタ—ゲットに、あるテレビコマーシャルを放送した。これは若者がひとり登場して、ただひたすらお茶漬けを食べるというコマーシャルである。30秒の間、「かっこむ」という表現がぴったりするほど、ひたすらお茶漬けを食べている。
お茶漬けは、若い男性の購買が少ない商品だった。この薄い層での消費拡大を狙って、若者がただひたすらお茶漬けをかつこむという映像を流した。これが若い食欲を刺激したらしく、若い男性の購買が急増した。
それに続くのが『ポケモン茶づけ』のCFである。このコマ—シャルによって、小学生の子供の食欲が刺激され、販売が伸びればお茶漬け層が拡大する。
子供は将来の消費者である。
子供のうちから、お茶漬けを食べる習慣と、お茶漬けなら永谷園という印象をつけておけば、本当の消費者に成長したときにコアになる。ポケモンによって、お茶漬けの現体験を植えっ

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けたいというのが、今回のコマーシャルの狙いのようだ。将来のお茶漬け消費者育成につながるのかどうか、結果が楽しみである。

順調に伸びているとき、もう一段仕掛ける

ばかにできないキャラクタ—効果
97年12月のアクシデントで、ほぼ4か月間テレビ放映が中止されていた。キャラクタ—商品にとって、一番の広告塔であるアニメが放送されないのは痛手である。
テレビの放送終了で寿命がつきたキャラクタ—は、今までにも数多く存在している。

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小売りの現現場は、限られたスペースにどの商品をどれだけ置くかということが直接売上げに跳ね返ってゆくだけに、売れ線の配置は最重要課題である。最近はPOSによって売上げデータは容易に把握できる。いくつ売れたかの数字は把握できるが、その大本の購入動機だけはPOSではわからない。そこで露出の多さが店頭展開にとっての、重要な要素になるのである。その意味でアニメ中止の影響の大きさが懸念された。『ポケモンカレー』などの商品に関しては、テレビの放送中止の影響はまったくなかった。放送が終了したわけではなく、ー時中止であったことと、放送再開を望む声が大きかったことで、実際の購入が落ちなかったのだろう。そこで、スーパーなど流通の現場も冷静に対応して売場から商品を下げなかった。その後も商品が店頭から消えることはなく、順調に販売を伸ばしている。
98年の2月には、ピカチュウのイラストをもっと大きくした新しいパッケージデザインバージョンを発売した。これによつ

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て、永谷園はレトルトカレー市場における子供向けカレーの位置を一層堅固なものにしてゆく計画である。永谷園の97年度の売上予測は585億円だったが、実際の売上げは600億円と予想を大きく上回った。このうち50億円をポケモンが稼ぎだした。
これもまた、驚くべきポケモンパワーである。

209  流行り物の詰め込みは失敗のもと

●JRのスタンプラリ—

10万人が動いた
その日、JR東日本管内の各駅の事務局の電話は朝から鳴りっぱなしだった。
「子供だけで参加しても大丈夫なんでしょうか」
「ラリーの切符は何時から発売するのですか」
「2日間で30駅は回れますか」
「当日ぼくは参加できないのですが、他の人に回ってもらっても大丈夫?」
電話口の向こう側で、勢い込んだように駅の係員に聞いてい

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るのはカワイイ声の子供ばかり。
1997年7月7日、7月25日から始まる「JR東日本ポケット モンスタ—・スタンプラリー」の事務局が開設されるや、小学生を中心にした子供たちからの問い合わせが殺到したのだ。夏休み時期になると、どうしても電車の利用客は減少する。そこで夏場の利用を促進しようと実施されているのが、期間限定のスタンプラリーである。これは各駅ごとに違うスタンプが用意されており、事前に購入したスタンプ帳にスタンプを押してゆく。全駅のスタンプを押すと、完成というイベントである。最初は15年ほどまえ、首都圏を走る私鉄が企画してスタ—卜した。駅を回ってスタンプを押し、全部押してスタンプ帳を完成させる。この企画がうけて、他の沿線からも親子がやってくるほどの人気となった。
スタンプを押すためにいちいち駅に降り、また次の電車を待って隣の駅に行きスタンプを押す。駅から外に出るわけではないが、スタンプが設置されている駅を回るので、今まで降りた

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ことがない駅にも下車することになる。子供にとってはミニ旅行を楽しんだ気分が味わえるし、親にとってもちょうどいい暇っぶしになる。
最近ではJRはもちろん、私鉄、地下鉄などどこでも開催しているので、少々飽きられつつあるイベントといっていい。各社とも、参加者の減少が目についていた。ところがポケモンスタンプラリーは、違った。

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商品開発は本当に好きな層を集中的に狙う

親子づれが駅のコンコースにあふれた
JRでは、ポケモンラリーの実施前から実施期間中まで、事務局を用意しておいた。問い合わせや運営に対応するためにである。実施が近づくと、スタンプ設置駅のスタンプラリー事務局の電話は鳴りつづけ、ラリー参加切符を買い求める親子で窓口はごった返し、ラリー開始の1週間前には、ラリー切符が売り切れる駅が続出した。
ラリー切符は、10万枚分用意されていたのにだ。例年これくらい用意はしているが大抵売れ残りが出る。それ

213  流行り物の詰め込みは失敗のもと

が実施前に売り切れてしまったのだ。今回の目玉はなんといっても「ポケモン」である。スタンプ台が設置されている規定の10駅を回ると、全員にJR東日本ポケモントレーナー認定証が、30駅のスタンプを集めた全員に超限定ポケモンスペシャルカードがプレゼントされる。参加者全員の中から抽選で、1000名にスペシャルピカチュウグッズが当たるという特典っき。
この特典に子供たちが反応した。
「波乗りピカチュウのカードがほしい」と首都圏のみならず、遠くは秋田県からわざわざ上京し、スタンプラリーに参加した親子もいた。
4月からアニメがスタ—卜して、ポケモン人気がいよいよ高まっていた。その余勢をかっての、スタンプラリーである。本来なら暇になる夏場に、職員は汗だくになって対応に追われた。ラリーチケットは2日間有効で、大人が2000円、子供が1000円。10万セットであるから、仮にすべて子供が買った

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としても1億円の売上げになる。1億円という金額は、これだけの駅を使い、人員を配置し、募集告知から運営までを行なっているのだから数字だけをみると赤字である。しかし、そのPR効果ははかり知れないという。
10万人の親子が、ポケモンを求めて山手線をグルグルめぐったのである。手にスタンプ帳をもった親子が、駅のコンコースをひと固まりになって走る姿は圧巻。
本来は閑散としているはずの夏場の駅が、人であふれかえった。
他の電鉄会社を尻目に、JR東日本の夏場の利用客促進イベントは圧勝に終わった。ポケモンでこれだけ多くの人間が動くことを、実証したのである。

215  流行り物の詰め込みは失敗のもと

卜ミ一

アニメが女の子のファンを呼んできた
97年のクリスマス商戦で一番話題になった商品といえば、文句なく『てのひらピカチュウ』である。実に170万個も売れている。単価1280円なので、単純計算で約22億円の売上げ。現在小学生は1学年に130万人といわれているので、6学年合計で約800万人、これを170万個で割ると4、5人に1人の小学生が『てのひらピカチュウ』を買った計算になる。もちろんこの商品は小学生はもとより、中学生、高校生、そして大人まで購入しているので、実際にはこれほどの割合にはな

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[[IMAGE CAPTION|
てのひらシリーズひかってヒトカゲ(トミー)
話しかけたり音をたてると音声センサーが反応し、「カゲー」と返事をしてくれる。また、尾の先端の炎(ムギ球)も光る。1280円
]]

--- MAIN TEXT ---
らないが、それにしても大変な数量ではないか。
『てのひらピカチュウ』の発売元は、トミー。トミーといえば、発売以来40年になるミニチュア自動車の『トミカ』や『プラレ—ル』を発売している、有数の玩具メーカーである。ポケモンシリーズを手掛けているのは、ボーイズ事業室。事業部制を導入していて、事業部ごとに商品の企画開発、マーケティング、事業プランをたてている。
ポケモンはもともとゲームボーイ用のソフトで、メインタ—ゲットが小学5、6年生の男子であったため、ボーイズ事業室が中心となって商品開発を進めてきた。
ポケモン関連商品の『モンスタ—コレクション』シリーズは、36種類発売していて、トータルで800万個も販売されている。151のモンスタ—の中から36種類を選んでいるのは、キャラクタ—によって多少人気にバラツキがあるためだ。どんなモンスタ—にもファンがついているのでまったく売れないというわけではないが、マスプロダクションになると、数が捌けるもの

217  流行り物の詰め込みは失敗のもと

[[IMAGE CAPTION|
てのひらシリーズ うるさい二ヤース
(トミー)
周囲の物音に反応し、6パ ターンのセリフのなかから ランダムに3つ選んで大声 で話し始める。アニメのニ ャースそのもの。1480円
]]

--- MAIN TEXT ---
を中心に製品化される。何を商品化するかは、綿密なマーケテイングと小学生へのアンケートなどで決められる。ゲームソフトが発売されたばかりのキャラクターの人気は、
1•ミユウ 2•ピカチュウ 3•ミユウツー 4•フリ—ザ丨 5•リザ丨ドン
ところが現在の人気は、
1•ピカチュウ 2•ミユウ 3•ミュウツ—
4•ピッピ 5•リザードン
「ミュウ」 は幻のポケモンということで、発売当初から現在ま で人気があるが、その「ミュウ」の人気をしのぐのが「ピカチ ユウ」である。「ピカチュウ」人気が高まったのは、アニメの 影響も大きいことはいうまでもない。
アニメの放送開始後、女の子のファンが増えたためにガール ズ事業室でも商品開発を開始している。
キャラクタ—商品というと、どうしても男の子に人気がある もの、女の子に人気があるものがハッキリ分かれる傾向が強い。

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男女両方に売れているというのが、ポケモンの本当の強みといえる。
誰でも知っているのに、商品化してもそれほど売れないキャラクターというものもある。
例えば、『サザエさん』などがその顕著な例。『サザエさん』は、子供からおじいさん、おばあさんまでもが知っている国民的なキャラクターである。確かに誰もが知っているが、タ—ゲットが広すぎてコアとなるタ—ゲットがいない。こういうキャラクタ—は、誰に何を売ったらいいのかはっきりしないので商品化しても動きにくいといわれる。
キャラクタ—は、対象範囲が狭くて、しかも深くのめり込んでいる層があると、商品化したときにヒットする。ポケモンは男女両方に売れていて、一見幅広い層に支持されているように見えるが、実際はそれぞれ自分の好きなキャラク夕—がはっきりしているので商品販売に結びつくのである。

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宣伝が足りないと思う前に、商品をもうー度見てみる

大本がよくなければ宣伝もむだになる
技術が向上し、各メーカーの製品にほとんど差がなくなってきているという。
こうなると、売れ行きを左右するのは、イメージと宣伝力だといってはばからない人もいるほど。
しかし、本当にそうなのだろうか。
ポケモンは、『コロコロコミック』と連動企画を行なって情報発信を常に行ない、ガシャポンのフィギユアでイメージを膨らませ、カードゲームでキャラクターの特性を補完し、仕上げ

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[[IMAGE CAPTION|
藤野凡平(ふじのぼんペい)/トミー・トイ事業本部第丨事業部ボーイズ第丨事業室室長。元ZOYDシリーズのデザイナー。「ポケモンは今後、女児玩具が侑望」
]]

--- MAIN TEXT ---
はアニメ化され毎週テレビで放映されている。これだけ揃っているのだから、ヒットするのは当然だと思う人が大勢いることは否定しない。実際に、ヒットしているのだから、こういう連携がうまく嚙み合った成果が出ているのだろう。トミーのボーイズ第1事業室室長・藤野凡平は、これほどの大きなムーブメントになる以前から、ヒットを予感していたという。「オリジナルのゲームがよくできているんですよ。これが基本にあったから、うけたのだと思います。商品を作っている立場からいうと、いくら一生懸命仕掛けをしても、宣伝をしても、もともとの商品がよくないとやっぱりだめですよ」つまらない商品も大量宣伝をかければ、一時的に売れることはあるかもしれないが、続かない。もちろんいい商品なのに、宣伝もなにもしなければそのまま埋もれてしまうということもあるかもしれない。
そのバランスが絶妙のタイミングで合致したのが、ポケモンといえる。

221  流行り物の詰め込みは失敗のもと

しかも、男女両方の心をつかんだので、倍のパワーで拡大していった。しかし、どんな場合にも、基本は「面白い」という実感をもっていることが必要なのだ。

こだわりと愛情が、商品にパワーを与える

立体は想像力から生まれる
ポケモンは最初平面だったので、立体におこすには苦労があった。一番は解釈の違いである。同じ「ピカチュウ」のぬいぐるみを作っても、メーカーが違うと微妙に違うものが出来上がる。色もほんのわずか違うだけで、出来上がってみたときにかなり印象が違ってしまう。

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[[IMAGE CAPTION|
カビゴンの立体サンプル。商品化が決まるまで何度でもチェックを受け、その度にサンプルを作り直す。原型師の腕の見せどころだ
]]

--- MAIN TEXT ---
キャラクタ—ビジネスが成功するかどうかは、すべては商品力にかかっている。
商品にどれくらい魅力があって、どれくらい子供の心を引きつけることができるか。
「ピカチュウ」のぬいぐるみなら、まず「ピカチュウ」そのものの魅力を十分に理解して、それを一番いい形で立体化してゆく。このときに「ピカチュウ」をどう解釈するかそれが問題で、ただ形が似ているというだけでは魅力的な商品は出来上がらな二次元の平面を三次元の立体にするには、解釈がたくさんある。二次元のときのどこがポイントなのか、それをきっちり押さえておくのが、商品化の一番のポイントとなる。商品化の根底にあるのは、作るものに対するこだわり。そのキャラクタ—が本当に好きでないと、なかなかいい商品はあがらない。キャラクタ—と企画者の相性もあり、いやいや企画した商品はまず当たらないという。

223  流行り物の詰め込みは失敗のもと

「キャラクタ—がいいからって、その絵柄を取りあえずプリン卜しただけという作り方では、キャラクタ—が消耗するだけです。キャラクタ—と商品との相乗効果でさらにパワーアップしていくことにならないと、ダメだと思うんですよ」入社以来デザインと商品開発を専門にやってきた藤野は、それまで作った幾多の商品を思い出しながら、実感を込めて語った。

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テレビに迎ムロしない商品作り

オモチャの開発のタブー
今、キャラクタ—ブームだといわれている。
街には確かに、ドラえもんやキティ、ディズニーなどたくさんのキャラクタ—が氾濫しているような印象を受ける。しかし、実際にはそれほどすごいブームになっているわけではない。たくさんもっているマニアが、目についているだけだという。オモチャの商品開発には、いくつかのタブーのようなものがあるという。
例えば緑色と紫色のオモチャは売れない、というもの。子供

225  流行り物の詰め込みは失敗のもと

は「男の子の色」「女の子の色」に敏感である。数色並べていても、男の子は「青」を選ぶ子が多く、女の子は「赤」か「ピンク」を選択する。誰が教えたわけでもないのに、なぜかその色を選ぶ。
子供が手を伸ばさないのが、緑と紫なのだ。
オモチャにおけるキャラクタ—のサイクルは1年といわれる。『ドラえもん』のぬいぐるみは長年発売されているように思われるが、毎年どこかしらリニューアルしている。
まったく同じ仕様で制作したものを次の年も販売すると、売れ行きが落ちるからだ。
これが例えばブロック玩具のような、キャラクタ—のないものならば、十年一日のごとく同じ商品を出しても、いっこうに売上げには影響がない。そこは、キャラクターに対する、子供の思い入れの差なのだろう。
キャラクタ—は、時間がたち成熟してくると、愛好者の年齢がだんだん低下してくる。最初は小学校高学年がコアターゲッ

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卜だったのが、やがて低学年、そして幼稚園児へと年齢が下がってくる。オモチャにおいては、年齢が下がるとそのキャラク夕—寿命がつきてきたと考える。
子供にはいつの時代でも、大人ぶっていたいという密かな願望がある。
今まで自分が遊んでいたオモチャを、自分より年下の子供が手に取り遊び始めると、急にそのオモチャに対する情熱がさめていく。その見極めが難しい。
それに値段の問題も大きい。
子供が自分のこづかいで買える金額は100円、200円程度。いくら最高の技術と素材でいいものを作っても、あまりに単価が高くて子供の手が出ないというのではオモチャとしての存在理由を問われる。
なかには、親に買ってもらうことを前提としたコンピューターゲームや大人のマニアが購入する3万円、5万円という高級ぬいぐるみもある。それはごく限られた層に対しての商品提案

227  流行り物の詰め込みは失敗のもと

で、マスに対してのアプローチではない。
生まれてからずっとテレビで育ってきた現代の子供は、テレビからの影響はもちろん受けるが、小学4年生程度になるとテレビに完全に感情移入する子供は少なくなる傾向があるという。もう少し冷静に見ることができるというか、子供ながら考えて映像を見ている。だからだんだんに、テレビに出ていたからという購買動機が通用しなくなってくる。こうした子供たちにキャラクター商品を提供する場合、本当の商品力が必要とされるのだ。
キャラクタ—のパワーにべったり寄りかかった商品開発ではなく、例えばピカチュウならば、カワイイ外見と機嫌がわるくなるとほつペたから高圧電流を出すという特徴をとらえ、それをどういうオモチャにしたら一番よく表現できるかを企画する。こうして出来上がったのが大ヒット商品『てのひらピカチュウ』をはじめとする一連の商品である。
今ポケモンが流行っているからポケモンのキャラクタ—を、

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既存のものにくっつけて出そうというのではうまくいかない。
また、
「今流行っている要素を、一つの商品にすべて投入するのも失敗のもとた」
と藤野はいう。
はじめにマーケティングありきではなく、商品一つ一つに最適な要素を組み込んでいくところに、次の流行の兆しがひそんでいる。

229  流行り物の詰め込みは失敗のもと

●バンダイ

新しいゲー厶を創造しょ一つ
ポケモンはゲームソフト、カードゲームと、遊びのツールを変えることで、広がりと浸透をはかってきた。その延長上で開発されたのが、『ポケモンプラコロ』である。
「ポケモンでサイコロゲームができないかな」
という石原のアイデアから誕生したもので、発売と同時にコロコロ誌上で紹介された。
『プラコロ』は、キャラコロというポケモンをデフォルメしたサイコロと、エネルギーを意味するエネコロ、そして相手にダ

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[[IMAGE CAPTION|
株式会社バンダイライフエンターティメント事業本部ホビー事業部福田氏(右)。ベンダー事業部小宮山氏(左)、澤山氏(中央)
]]

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メージを与えるためのワザカードなどで構成されている。ルールは、先にワザカードを出してから、キャラコロとエネコロを同時に振り、ワザカードに書かれているマークと同じ目を出せれば相手を攻撃できるというもの。このとき、キャラコロが立っているか、寝ているかなど、キャラコロの転がり方で攻撃力なども変わってくる。これを対戦相手と交互に行なうことで勝敗が決まる。
現在キャラクタ—は24種類発売されている。プリンなどの形が丸くてサイコロにしにくいものもあるので、種類はそれほど多くはない。キャラクタ—は必ず4種類のバリエーションがあり、表情や手の形が違っている。つまり形が多少でこぼこしていることで、転がっている過程でどんな出目になるか確率が微妙に変わってくる。こうしたところもサイコロの転がし方の技術に、運の要素も加味されて面白いものになっている。ホビー事業部の福田真典は、
「キャラクターの顔も、笑っているのや怒つているのなど、

231  流行り物の詰め込みは失敗のもと

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バンダイはポケモンキャラ クターを立体化するにあた って、何度もデッサンを繰 り返した
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色々なポーズのキャラクタ—があります。子供にしてみれば、 普通の顔や笑っている顔を欲しがりますが、クローズドのパッ ケージなので、選べないようになっています。実際にゲームを 楽しんでいる子供は、エネルギーサイコロを強くするために複 数買い求める子供もいるようです」 サイコロゲームは、「改造」を基本テーマにすえた。開発が ホビー事業部だったので、「組み立てられるもの」という要素 と「最終的な形態がゲームであること」、そして「改造すると いう要素を必ず入れる」ということで開発が始まった。 『コロコロ』でミニ四駆が人気になっていたため、カスタマイ ズの要素は取り込んだ方がいいということと、対戦の要素は必 ず入れることが命題だった。
開発に際してクリエータ—には、子供の思考のように3段階 で考えることが要求された。
「組み立てる前に考える」
つぎに、

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「組み立ててから実際に遊んでみて考える」
そして、
「遊んでいる過程でもう一度、自分の工夫ないしオリジナリテイーの出し方を考える」
こうして子供たちに考えさせる要素を組み込んだのが、『プラコロ』である。
「本当はもっとたくさんのキャラクターをサイコロにして、ー度に振ることで遊ぶようなゲームにしたかったのですが、今のところこの形で落ち着いています。もっと高尚なダイスゲームにしたい部分もあったのですが、子供版の勝負の早いサイコロゲームというところでしょうか」
と福田はいうが、1セット500円のレギュラー商品がメインで、97年の暮れまでにすでに300万個販売されるヒット商品となった。

233  流行り物の詰め込みは失敗のもと

「生」の消費者に近づく
真剣に遊ばせることでゲー厶は定着する『コロコロコミック』が主体のイベント会場で、『プラコロ』の全国大会を開催し日本一を決めている。これも、真剣に遊んだ子供を誉めてあげるという趣旨の延長線上にあるイベントで、97年から98年にかけて全国5か所で総勢600人が挑戦した。この会場で福田は胸が熱くなる思いを感じた。参加した子供がどの子も、サイコロを改造しているのを見たからである。ゲームの作り手の意図がしっかり伝わったということで、ようやくゲームが受け入れられたことを実感した。し

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プラコロ(バンダイ)ポケモンとエネルギーを意味するサイコロと、ワザカードを組み合わせて遊ぶ。セットで500円
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かも、かなり頻繁に転がしているらしく、端っこが欠けているサイコロもあり、ゲームが定着したことがわかる。「僕専用のキャラコロを作ってもらえませんか」時折子供から、こんな電話が入ることがあるという。発売するのではなく、自分専用のサイコロを作ってほしいという要望が出るほどに、子供の心をとらえているのである。新商品の情報は、発売の直前にコロコロコミックに掲載する。雑誌発売と同時に、子供からの電話が急に増える。「新キャラクタ—の技カードの名前を教えてください」この問い合わせが圧倒的に多い。実際にゲームをする子供にとってはこれが一番知りたい情報なわけで、その熱心さには驚くばかりだという。
母親がよく口にする言葉で、
「遊んでばかりいないで、勉強しなさい」
というのがある。
確かに勉強することも大事なのだが、真剣に遊ぶというのも、

235  流行り物の詰め込みは失敗のもと

これもまたひとつの大切な体験であり、勉強なのではないか。商品を開発する側は、企画意図通りに商品が広がることは、企画者冥利につきるところである。
しかし、なかなか思惑のようにはいかないのが普通である。まして、まったく新しいコンセプトで開発された商品は、意図した形で広がるのは難しい。この『プラコロ』が定着したのは、まず開発者が実際に遊んでみて、その中で矛盾点などを発兒していったからに他ならない。真剣に遊んでもらいたいならば、開発者も真剣に遊ぶ、仕事だからというのではなく真剣に遊んだからこそ、遊ぶ子供の気持ちをキャッチできた。そして、真剣に遊んでいる子供を誉めてあげるために、全国大会を真剣に開催する。
大人が自分のために真剣になってくれている、ということがまた子供の心を引きつける要因になっている。これは、すべての商品開発に通じることではないだろうか。