Secrets of Pokemon/Chapter 5: The anime that started with a "no"

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第5章

〃ノー〃から始まった
アニメ化

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アニメは底辺を広げるパワーがある

テレビは麼楽だ
「アニメになったら、ポケモンが駄目になるんじゃないかと思って、反対したんです」
クリーチャーズの石原恒和が、コロコロコミックの編集部からアニメの提案があったときのことを振り返ってこういつた。テレビはパワフルな媒体である。
よくも悪くも強力な影響力で、ムーブメントを起こす力をもっている。
あっという間に、全国区にのしあがることも不可能ではないー

147  ‶ノー″から始まったアニメ化

[[IMAGE CAPTION|
アニメ『ポケット モンスター』の主人公サトシと、サトシと一緒に旅をするピカチュウ。テレビ東京にて毎週木曜日19:00より放送中
]]

--- MAIN TEXT ---
テレビがスタ—卜することは、究極のメディアミックスの完成、理想的な展開のようにみえる。
しかし、石原は最初に「ノー」といった。
スタ—卜するのが、こわかったという。テレビが始まると、ブレーキがきかなくなるのではないか、それはポケモンの寿命を縮めることになるのではないか。
今までの例でゆくと、テレビの放映が始まると、たしかにー般への認知度が急速に高まり、それに連れて関連商品の販売が拡大する。しかし、それは一時的な現象である。テレビ放送が終了すると、今までの人気がウソのように冷え込み、そしてあっという間に忘れ去られてしまう。
つまり、テレビの放送終了が、すなわちキャラクタ—の寿命が終わるときになる。
石原は、ポケモンをそういう状況の中に置くことをよしとはしなかった。あくまでも商品を含めたキャラクタ—戦略を自分のコントロール下において、方向性を決めて行くやり方を死守

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したかった。
アニメは見えないところに向けて走りだす、別の引き金になりかねない。
しかし難色をしめす石原に対して、コロコロコミックの編集部は、あきらめずに企画書を提出しつづけた。
ポケモンの将来を考えるにあたり、この先発売が予定されている『NINTENDO64』の販売をより確実なものにするためにという観点に立ち、すでに仕掛けが成功している「ミニ四駆」のアニメ戦略を例に引きながら説得にあたった。

149  〝ノー〃〞から始まったアニメ化

キャラクターの命運はテレビが握っている!?

失敗から学んだのは人任せにしないことコロコロ編集部も、石原の危惧するところを理解できない訳ではなかった。というのも、編集部ではすでに一度辛酸を舐めていたからだ。
10年程前、当時コロコロで連載していた『ダッシュ四駆郎』というマンガをアニメ化した。広告代理店の仕切りでアニメがスタ—卜し、放送にともないミニ四駆の人気も高まっていった。ところが、代理店の思惑で半年で打ち切りになってしまったのだ。

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視聴率も悪くなくスポンサーも続けたいという意向をもっていたのに、あくまでも代理店の一方的な都合で放送が終了してしまった。
問屋や小売店は、テレビの終わりがイコールミニ四駆の人気の陰りと判断して、商品を売場に置かなくなった。結局第1期のミニ四駆の人気も谷を転げ落ちるように急降下していった。この失敗で学んだことは、アニメ化するならば代理店任せにせず、自分でコントロールすること。そのためには、自らスポンサーにはいって、内容を深くチェックする必要があるということだった。
その方針にしたがって再度『爆走兄弟レッツ&ゴー!』のア二メ化を行ない、放送開始からすでに3年が経過している。代理店が口出しできないように、スポンサーも独自に開拓していった。版権管理を系列の小学館プロダクションが行なっているので、版権を利用したい企業にアプローチして、アニメ化したときはスポンサーになるという条項をつけて、版権を許可する

151  〝ノー〞から始まったアニメ化

方法をとった。
スポンサーが固まると、ある程度バジェットがみえてくる。バジェットをこちら側でホールドしているので、放送局に対してどこの枠がほしいという交渉ができる。

専門の大きな組織でも任せきりにしない手法

1年半の継続が条件
コロコロ編集部がアニメ化に向けてのプレゼンテーションを初めて行なったのは、1996年の8月の終わりだった。当時の版権管理の窓口の任天堂と、プロデューサーの石原に対して、その後何度もプレゼンを行なっている。

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任天堂は、あの驚異的大ヒットソフトである『スーパーマリオブラザーズ』でさえ、アニメ化はしていない。任天堂がアニメに対して積極的ではなかったのと、ポケモンは半年かけて十分に育ったから、これ以上の急激な展開は必要ないという考えから話は進展しなかった。
その後コロコロの久保は、編集部を代表して3時間以上にわたる独演会とも言えるプレゼンテーションをしている。
「アニメーションで動くことが、今後の64の展開につながる」
「ドラえもんを育ててきた会社として、ドラえもんのように息の長いキャラクタ—にするノウハウをすべて活用する」
「アニメ化に関して版権管理を小学館プロダクションにうつしてもらい、その代わりアニメにかかるバジェットは保証して、任天堂にとっていい条件ですすめる」「放送内容に関して、しっかりチェックする」
「新たな顧客開拓には、やっぱり電波という媒体を使うしかない」

153  〝ノー〞から始まったアニメ化

一つ一つ具体的に、ときには事例をひいて説明を行なった。そして、
「放送が始まったら、1年半の継続は約束します」この一言で、石原がうなずいた。
ようやくアニメ化にむけて、版権業務の移転交渉が妥結したのが、97年2月、放送開始の2か月前のことだった。

組織に頼らず自分の発想に自信をもっこと

どうしても月曜に放送したい
任天堂への説得を続けている間にも、久保はテレビ東京と放送枠の交渉にはいっている。

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どうしても月曜日の枠がほしかった。ナイタ—もなく、Jリ—グの試合もない月曜日の夕方6時か7時台の枠を要求した。ところがそこは某大手広告代理店の買切りになっていた。代理店にしてみればすべて金額が見えているし、小学館プロダクションがスポンサーをホールドしているので、スポンサーが落ちる心配はない。リスクはないが、ウマ味もない。テレビは視聴率があがってくれば、スポンサ—料金もあがってくるが、最初から決まっているのであがらない。しかも、制作も前年9月の時点で小学館プロダクション主導で決めてしまっている。代理店にとって、制作的なメリットもない。結局折り合いがつかず、火曜日の午後6時30分という放送枠になり、新たにJR東日本企画が代理店としてはいることになった。
JR東日本企画というのは、国鉄の民営化から1年ほどして設立された広告代理店である。JRのすべての広告をハウスエ—ジェンシーとしてうけているJR局のほか、駅ビルやJR関

155  〝ノー〞から始まったアニメ化

連の飲食店の広告を担当している1局、そしてJR以外の広告を扱っている2局がある。
JR東日本企画は、以前小学館プロダクションからの提案で、藤子•F・不二雄さんの『モジャ公』のアニメを買い切ったことから付き合いが始まった。それが縁で今回のポケモンも、代理店としてJR東日本の名前があがった。駅や電車、キヨスクという交通広告媒体をもっているというのも、魅力のひとつであった。
アニメがスタ—卜して除々に人気が出はじめ、放送開始から7か月経った97年11月11日、っいに18・6%という驚異的な視聴率を記録する。

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面白いと思うところから、達成感が生まれる

原作者が納得するものを作ろう
ポケモンのアニメ化にあたり、編集部はまずスタッフ全員にゲームを渡して、実際に自分でプレーしてみるように提案した。原作者を尊重し、その世界を理解してからでなければ脚本もかけないし、違ったものになってしまうことを恐れたのだ。スタッフがプレーすると、異口同音に面白いという。「いまトキワの森ですが、まだポケモンは18匹しかいません」といいだすスタッフがいたり、どの人も子供と同じように夢中でゲームに挑戦した。

157  〝ノー〞から始まったアニメ化

[[IMAGE CAPTION|
吉川兆二(よしかわちょうじ)/アニメプロデューサ-。コミック、アニメ、ゲー厶、玩具、広告のすべてに通じている。メディアミックスの専門家
]]

---MAIN SECTION---
今回のプロデューサー、スタジオ旬の吉川兆二もそのひとりだった。
もともとゲーム、マンガ、アニメ等の企画会社に勤務していた吉川は、独立して企画会社を経営している。
コロコロ編集部とは『爆走兄弟レッツ&ゴー!』のアニメ化からの付き合いである。
東京都町田市に生まれた吉川は、子供の頃からマンガ家になりたいと思い、実際にアシスタントをやった時期もあったが、その後曲折を経て現在の企画立案やアニメとゲームの仲立ちをするプロデューサーの仕事につくようになったという。ある意味でゲームとアニメの両方に通じている人といっていい。吉川は、ゲームとアニメとは世界観が一緒でないと、いいものはできないという。
「『ポケモン』はほかに類を見ない作品になっていると思います。ゲームとアニメが非常にいい関係にあると思います」吉川のいういい関係とは、何を表しているのだろうか。

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「田尻さんをはじめみんな、非常にアニメを理解している。どうやって作られていくとか、どういう力があるとかいうことをきちっと見て、それを楽しんでくれているというところが一つ大きな理由としてあります」
アニメを作るにあたって、過去に幾多の不幸な例もあったという。
「『ドラゴンクエスト』というのは、あれだけゲームがヒットしました。当然アニメもヒットするだろうと、やったけれどもアニメとゲームが肩を並べるほどにはいかなかった。で、『フアイナルファンタジー』にしても、そうだったんです」その理由を吉川は、ゲームの製作者のアニメに対しての理解度が非常に低かったせいではないかと分析する。同時に、アニメの製作者の方も、大ヒットゲームという看板があるのでやらされている感があって、下請けの姿勢に回ってしまつたのではないかと分析している。
自分たちで作るんだという意識が、そがれてしまったのでは

159  〝ノー〞から始まったアニメ化

ないか。
視聴者は、ゲームのなかの魔法技や奥技といったいろいろな技を、どうやってアニメで見せてくれるだろうと期待していたのに、きちっと見せてくれず裏切られた気分になる。逆にアニメ製作者はアニメで、主人公が成長していくというのを、ストーリーはこういうふうに追いかけるといって独自の作り方をした。
独自という言葉で表現はしているが、それはゲームを否定しているのと同じである。
つまりアニメの製作者が、ゲームという違うフィールドの中から面白いところを抽出しないで、ゲームの枠に縛られたら面白いものはできないと勝手に判断して、自分たちでオリジナルで作っていくから失敗につながるのではないかというのだ。吉川はアニメの製作担当者に会う前に、田尻と石原の意向をきいて、現場に伝えた。それが、『ポケモンに愛を』だった。

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素直な気持ちで理解しあえばいい仕事がはじまる

わき役を一匹も出さないアニメを作る
『ポケモン』のアニメでやりたいのは『ドラゴンボール』ではない。
『ドラ、コンボール』をやりたいなら、主人公のサトシがどんどん強いポケモンをそろえて、天下一武道会みたいな大会をこなしていく過程を見せればいい。
それも一つの『ポケモン』の世界である。
しかし、今回表現したいのは、それではない。
どちらかというと『シートン動物記』や『ファーブル昆虫

161  〝ノー〞から始まったアニメ化

記』をやりたい。つまり、人間は戦っていくだけが成長ではなくて、人との出会いも成長だと思うことを子供に伝えたい。動物との出会いもその一つである。
吉川はスタッフ全員に言い続けた。
「ポケモンとの出会いとい、つところに、成長を持っていきたいんだということを言ったんですよ」
アニメのクリエータ—は、ロボットモノにしても車モノにしても、主人公と女の子がいると恋愛モノに持っていきたがる傾向があるという。
「そうじやなくて、しっかりとポケモンを見つめてほしい。だから、ポケモンに愛をということを言い続けてたんですね」通常のアニメのつくり方の場合には、ポケモンが151匹もいるので主力のモンスタ—以外はすべてわき役という扱いになる。しかし、開発者の田尻は、1匹もわき役として描いていない。見た目はわき役に見えるのもいるが、愛情をかけて一体ー体を作っているのだ。

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アニメでは、イモムシのキャタピーの登場する話を放送している。たとえイモムシでも、キャラクターがドタバタはねてポケモンがちよつと出てくるのではなく、しっかりとキャラクタ—がポケモンと対峙しているようなつくりになつている。こういうアニメーションを作る、というスタッフ全員の気持ちがア二メに結集しているようだ。

お約束のつくり方を否定する

151のモンスタ—を生かす
もともとゲームボーイのドット絵だったポケモンを、アニメにして動かすというのは、簡単そうでそれほど簡単な作業では

163  〝ノー〞から始まったアニメ化

[[IMAGE CAPTION|
ポケットモンスター
キャタピー
芋虫ポケモン。このあとさなぎポケモンのトランセルを経て、蝶々ポケモンのバタフリーに進化する
]]

ないという。
大体の形はバンダイが発売していたカプセルのフィギュアで、確認した。
しかし、技をかけるときはどういう格好になるのかだれもわからない。
そして一番問題になったのは、鳴き声である。人間の声でしやべるのか、それとも鳴き声だけなのか、もし鳴き声だけならどんな声で鳴くのか。知能レベルやポケモンのもつ雰囲気から判断しなければわからない。
そこで、ゲームフリークの開発担当者が中心となって、151についてひとつずつしやべるのかどうかチェックした。しやべるかどうかは、モンスタ—の知的レベルの設定をどこにもってくるかによっても変わってくる。
ゲームのポケモンは動かないし、鳴き声も4つの音を使って工夫してつくっているが実際は鳴いていない。
一方でアニメは動かし鳴かせることができる。動かして鳴か

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せた瞬間に、ポケモンは生きてくる。ポケモンが生きさえすれば、アニメはゲームと肩を並べられる。
大切なのは、その生かし方である。
主人公のサトシと一緒に旅をするポケモンを設定するのにも苦労があった。
ゲームでは3匹のポケモンのなかなら、自分で好きなものを選んでゲームを開始する。当初はその3匹のなかから選べばいいのではないかという意見が、スタッフの間では大勢をしめていた。
しかし、あのなかから1匹選んでしまうと、その一つだけがフィーチャーされてしまう。アニメが始まる時点でゲームをクリアしている子供たちは、次のゲームにたいする飢餓状態が続いている。そこでアニメが始まって、自分が実際のゲームで選んだものとは違うポケモンがメインになると、「ぼくはゼニガメを選んだのに、なんでアニメはヒトカゲなんだ」

165  〝ノー〞ら始まったアニメ化

という不満が出るのは損だ、と監督の湯山邦彦は考えた。

期待を裏切らないところからすべては始まる

ピカチュウの選択
そこで、まったく別のポケモンを選ぶことになった。どうせなら可愛いポケモンのほうがいいだろうということで、最終的に人気の高いピカチュウが選ばれた。
ゲームをやっているのは、小学校高学年の男の子が大多数だが、アニメをはじめるにあたって、女の子にもタ—ゲツトを広げたいという考えがあつた。だから、どうしても可愛いキャラクターを選択する必要があった。といっても、別に「ピカチュ

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[[IMAGE CAPTION|
ポケットモンスター
プリン
かわいい風船ポケモン。歌を歌って商攵を眠らせる゛うたッ"が基本技。女の子に人気の高いキャラクターのひとつ
]]

--- MAIN TEXT ---
ウ」でなくても、「プリン」でも「ピッピ」でもよかったのだという。
『コロコロコミック』のマンガの主人公は「ピッピ」なのだから、キャラクターになる条件は十分に満たしていた。ところがアニメの内容を考慮すると、どうしても「ピッピ」とは違う。そこで、「ピカチュウ」をメインにした新しいものを作り上げた。
「ピカチュウ」をメインにするとして、どういうキャラクタ—にするか、田尻、石原を交え、アニメの製作を担当しているOLMの奥野敏聡、神田修吉、それに監督の湯山などが集まり検討会を開いた。
そこで「ピカチュウ」は、「ピカピカ」とか「ピカチュウ」としかしやべらないように設定された。ゆくゆくは、しやべらせてもいいと考えていたのだが、実際にやってみると、声優の技量が高く、余計なことをしやべらなくても、しっかりと意志や感情が伝わることがわかったため、しやべらせることをやめた。

167  〝ノー〞から始まったアニメ化

[[IMAGE CAPTION|
ポケットモンスターピッピ
これも女の子に人気のある妖精ポケモン。『コロコロコミック』で連載中のポケモンコミックでは主人公として活躍している
]]

--- MAIN TEXT ---
この選択は的中したといえるのではないか。
ピカチュウの可愛らしさも手伝って女性の人気が急上昇。ポケモンの看板のような存在になって、ピカチュウ大好きの「ピカラー」まで登場したのだから、人気というのはわからない。こうして現場もきちんと『ポケモン』と向き合っているのでピカチュウをよりリアルに動かそうという意識になる。例えば、シナリオには書いていない部分がかなりある。それを絵コンテマンが、楽しんで描く。
サトシとタケシが会話をしているシーンでは、サトシのロパク、タケシの口パクと本来はそれだけでいい。セル画の枚数はその方が使わない。しかし、その下でピカチュウがウロチョロしているようにつくる。きっとピカチュウなら、ここでうろちよろしているハズだと。
登場人物は、物語の進行には直接かかわらないような、たわいのない会話をすることがある。そのときにピカチュウが動いている。それを見て子供たちも楽しむ。でも、そのピカチュウ

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を動かせとはシナリオ上には書いてない。それが現場のノリになっている。ピカチュウが時々ふとんを被って寝ているのは、その延長でご愛敬。
その辺の、ゲームでは出せない部分で楽しもうという意識が現場にもある。
ポケモンに対しては、ゲームクリエータ—がアニメに興味を示しているし、アニメスタッフがちやんとゲームを楽しんで、仕事としてだけではなくて楽しんでやっている。これが現場の雰囲気を盛り上げている。

169  〝ノー〞から始まったアニメ化

想像力は映像によって規定される

アニメの奥行をひろげる
懐かしさというキーワード
小学館プロダクションのメディア事業部のプロデューサー、盛武源は、ポケモンの成功について、「各回にいろんな要素を入れていて、毎回面白いのと、懐かしさがあるところが受けているのでは」という。
例えばシナリオライターは5人、応援をふくめると7人で書いているが、昔のアニメのようなノスタルジックなギャグがちりばめられている。ポケモンのアニメは母親の評判がよく、

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[[IMAGE CAPTION|
盛武源(もりたけもと)/小学館プロダクションメディア事業部プロデューサ—。人数の多いプロジェク卜の調整役。「バランスをとるのが私の仕事」
「安心して子供に見せられる」
]]

--- MAIN TEXT ---
という投書が寄せられるという。母親世代が子供の頃みていたアニメのティストに似ているから、懐かしさを感じるのではないかとい、つのだ。
またゲームには登場しないムサシ、コジロウやゲームとは性格づけを異にする二ヤースという主人公の行く手を邪魔するキヤラクタ—を配置するなど、アニメならではの工夫も施され、話に奥行と厚みをもたせている。
キャラクタ—にあわせた声優の声など、すべてがバランスよく配置されているために、あれほどの人気アニメとなったのであろう。
アニメの人気を喜びながら、しかし石原は手放しで喜んでいるわけではない。
アニメ人気で、ポケモンをアニメから知った人がかなりの数に上る。
アニメのおかげで、一般的な認知度も大幅に上昇した。

171  〝ノー〞から始まったアニメ化

しかしゲームのなかで、ポケモンに接していた子供たちは、色もない、動かない、声もわからないモンスタ—に対して、自分の想像力を駆使して遊んでいた。
ところがアニメの形で、ポケモンが限定されると、子供の想像力の入り込む余地がないのではないか。
「自分にとってのピカチュウは、これだというような、キャラクタ—に対する思い入れがなくなるのではないか」石原は心配している。それほどに、アニメのポケモンは、パワーをもったということの裏返しでもある。

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今欲しいのは、やつばリ本物!?

[[IMAGE CAPTION|
笹さおりさん。自他ともに認めるピカラ|。「ピカチユウ大好き!子供に混じってオモチャ売場に行きまくってます!-
アニメが作り出したピカラ—
]]

--- MAIN TEXT ---
アニメが放映されたことで、ピカチュウの人気が一挙に高まった。その影響で、ピカチュウの関連グッズが多数発売されている。
97年のクリスマス商戦の目玉だった『てのひらピカチュウ』をはじめ、携帯電話用のマスコット、ぬいぐるみ、フィギュアなどピカチュウグッズが市中にあふれ、そのグッズをコレクションする「ピカラー」と呼ばれる熱狂的なファンも出現した。「ピカラー」は、そのほとんどが女性、しかも10代後半から20

173  〝ノー〞から始まったアニメ化

さおりさん力ヾいつも持ち歩いているピカチュウグッズ。上の写真は彼女自身が撮った「うちのピカチュウたち」
代の女性である。
大人も捕らえて離さない、「ピカチュウ」の魅力とはなんなのだろうか。

●ピカラーの笹さおりさん(26歳/販売)
ピカチュウの前はキティが大好きで、グッズもいっぱい持っていました。
最初は波乗りピカチュウをテレビで見て一目ぼれしたんだけど、そのときはそれがなんであるかまだよくわからなくって。そのあと、たまたまボーイフレンドがテレビ東京のポケモンア二メを見てて、コレだ!って知ったの。
『ポケモン』というより、とにかく「ピカチュウ」が好きです。キャラクタ—関係に詳しい友達がいるから、早速電話で「ピカチュウ」のものがどこで買えるのかを聞いて、走って買いに行っちやいました。
ピカチュウのつぎに好きなのはプリン。ほかのはあまり知ら

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[[IMAGE CAPTION|
右から愛ちゃん、のぞみちやん、弘美ちゃん。おはスタも見ている高3のピカラーたち。「もっと女子高生向けグッズが欲し〜い!」
]]

--- MAIN TEXT ---
ないからなんだけど。
最初に買ったのは『おしやべりピカチュウ』と携帯に付ける光るマスコット。今のお気に入りはぬいぐるみ。
1/1もいいけど、一番好きなのはおなかを押すと〃プウ〜〃って鳴くやつ (こどものオモチャにありがちなアレ) が好き。プラモンはちやんと自分で作ったんだよ〜。デパートへ行くときは必ずオモチャ売場をチェックしています。今はそれほどでもないけど、一時期はコンビニとかスーパ—にも毎日通って、チョコとかグミ、ラムネとかのお菓子のおまけもチェックしてた。欲しいのに当たるまでね。仕事は化粧品の販売で、しかもサブチーフという立場があるのでおおっぴらにはできないんだけど、周りの人は私がピカチユウを好きだって知ってるから、例のアニメの放送があった次の日は、 「昨日大丈夫でした?」 なんて聞かれたりもした(笑い)。
ピカチュウの魅力は、黄色くって丸くってほっぺが赤くって、

175  〝ノー〞から始まったアニメ化

とにかくかわいい!コミックも見てみたけど、鳴き声と表情がいいから、やっぱりアニメのピカチュウが一番好きかも。今欲しいグッズ?本物かな。
あと、近所にないので、家の近くにローソンが欲しい!

もう少し予算があれば、は失敗の言い訳てある

あえて戦わない
〜最高咼視聴率18•6%が達成された訳
民放各局では、夕方5時30分ないし6時からのニュース戦争を展開している。このところ圧勝している日本テレビ「ニュースプラス1」に追い付け、追い越せとしのぎを削っている。こ

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[[IMAGE CAPTION|
ポケモンアニメに登場するロケット団のムサシとコジロウ。ポケモンの二ヤースがロケット団のー味としてレギュラー出演
うした夕方のニュース戦争に加わる事なく、泰然と我が道を行くのがテレビ東京である。
]]

--- MAIN TEXT ---
『ポケモン』の放送時間である6時30分という時間帯は、裏はすべてニュース。しかも系列各局が地域のニュースを放送している時間である。この時間帯に子供たちが熱中してアニメを見ることができるのは、テレビ東京だけとい、つことになる。ニュ—ス番組をぶつけて戦うことをせず、同じアニメでバツティングしない、これが『ポケモン』の高視聴率の根底をなしていた(97年12月の中断まで。98年4月再開後は卷7時へ移動) 。もちろん、内容がともなわなければ数字はついてこない。アニメの内容に昆虫採集的なティストがあり、自然に対する子供が感じる不思議や、冒険の要素が入っているというのは、子供にとっての普遍的テーマである。
虫が成長してサナギになって、変身、変節していき、それをゲットしてゆくというのは、強いロボットが敵と戦って倒していくといった従来のアニメによくある世界とは似て非なるもの。

177  〝ノー〞から始まったアニメ化

しかも、ポケモンには気絶しても絶対死なないというところに象徴されるやさしさも。これが親が安心して子供に見せられるアニメという評価につながり、子供がチャンネルを合わせやすいというのも、数字を形成する要因になっている。アニメの代理店であるJR東日本企画の第二営業局・吉田紀之は、
「テレビの場合、本当はもう少しお金をかければいいものができたのに、とよく言う。今回の作品に関しては、そういうことがないようにしたかった。そのためにクライアントには、少しご負担をかけましたが、おかげでいいものができあがりました」
という。
良質の作品をつくりたかったら、かけるところには資金を投入すること。後になって、「もう少し〜たら」「あの時〜れば」といっても始まらない。
アニメの提供スポンサーは、基本的にキャラクタ—の版権を

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利用している企業である。版権使用の条件としてアニメのスポンサードがついている。番組は通常同業他社が相乗りの形で提供することはないのだが、『ポケモン』ではそれが行なわれている。
これはアニメの長寿番組『ドラえもん』で行なわれていた方法を、そのまま踏襲したものである。この方法だと、スポンサ—が番組途中で降板するという危険性を回避できる。また、提供番組のキャラクタ—をそのまま製品のパッケージに使ったり、人形を作ったりしているので、各企業の個別の商品コマーシャルに長い時間をさかなくてもすむ。これは「番組そのものがコマーシャルだ」という、考え方に基づいたものといえる。
こうしたニュース番組を蹴散らしての堂々の視聴率は、あえて隙間を狙った時間枠選びと、親を安心させる番組づくり、そして安定的なスポンサーの確保という複合で達成されたのである。

179  〝ノー〞から始まったアニメイ匕

個人のエゴはもとより企業のエゴと闘う勇気

お金のために妥協しない
最近のヒット曲は、テレビドラマやコマーシャルのタイアップが多い。大ヒットを飛ばすには、いかにテレビとタイアップをするか、それを成立させるのがプロデューサーの仕事とまで、言われるくらいである。
この傾向に対しては、非常に気を遣った。
レコード会社がスポンサーにつくと、自社のお仕着せアーテイストの曲を、オープニングとエンディングに使われる可能性が高い。

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[[IMAGE CAPTION|
おかげでアニメのCDが、185万枚も売れた。
ポケモンアニメのテーマ曲に加え、念仏のように歌う子供が続出した『ポケモン言えるかな?』も収録。ピカチュウレコーズ/950円
]]

--- MAIN TEXT ---
アニメの内容とはまったく関係ない曲が、オ—プニングやエンディングに使われることがあるのはこのためである。やはり『サザエさん』や『ドラえもん』のように、アニメの内容に即した歌で、番組をはじめたいと考えた。
そこで、クリーチャーズの社員の戸田昭吾が作詞、任天堂社員のたなかひろかずが作曲した曲を使った。
しかも、歌っているのも社員である。
出来上がるまでは、関係者が何度も聞き直し、
「なんかわからないけれど、ポップじやない」
などと勝手な注文をつけて、手直しをしてやっと完成した。まさに、身内バンドの集大成のような、オープニングとエンデイングなのである。
商売としてやっていないから、納得がいくまで何度も手直しができる。それぞれが妙なエゴを全面に出さない。だからこそ、いいものができたのである。

181  〝ノー〞から始まったアニメ化

もうひとつアニメで忘れてはならないのが、企業のエゴが働いていないこと。
スポンサーの新商品をさり気なく番組に登場させてほしい、といった要望に形をかえた圧力がかかるというのは、アニメに限らずどこの番組でもあるものだが、ポケモンのアニメでは、そうした企業のエゴがない。
お互いに牽制し合っているのか、それともエゴを出す必要がないのか、どちらにしてもエゴがないから、お互い言いたいことをお腹に蓄めずに話すことができ、それが風通しのよさになって、いろいろな要素がうまく回転しているようだ。

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チャンスは逆風の中に……

世界に通用するアニメのキーワードは
八ートウォ—ミング
97年12月16日、『ポケモン』を見ていた子供たちが、光の刺激によってケイレンをおこすという事件が発生した。この事件は欧米にも伝えられ、アメリカではクリントン大統領が真剣に取り組むべき問題だと発言したと報道された。しかし、この事件は新しい展開をもたらした。
『ポケモン』は、日本国内で放送されているだけで、世界的にはまったく無名のキャラクタ—である。ところがあの事件の報

183  〝ノー〞から始まったアニメ化

道のために、名前が知られ、アメリカのテレビのプロデューサ—から、是非ビデオを見せてほしいという依頼があった。そこで1話目を見せたところ、
「ハートウォーミングだ」
としきりと感心する。
たしかにアニメの1話目は、主人公のサトシが「ピカチュウ」と一緒にポケモントレーナーになるために苦闘するという話で、「ピカチュウ」がケガをしたのに、そのケガをおして敵と戦ったりというストーリー。「ピカチュウ」がケガをするシ—ンなど、大人でも思わずほろりとさせられるようなっくりになっている。
それを称して「ハートウォーミング」と表現したようだ。アメリカでは子供向けの番組はとくに残酷なシーンに対する規制が厳しくなっている。その点、親が安心して見せられる『ポケモン』は、適しているのかもしれない。
とりあえずアメリカでは98年9月21日から全米の90%の地域

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で、放送が開始される。
このほかヨーロッパでも、秋には放送が始まる予定で話が進行している。
アジアでは、台湾、韓国、香港を含めた12か国をマーケットに放送される予定になっている。
ポケモンは、そもそもの設定が時代も場所も無国籍。話の舞台になっている「マサラタウン」も、町自体が「まつさら」という意味だという。どこと限定されていないから、かえってどこの国へもっていっても違和感がないということになる。普遍的な街というのも、またポケモンワールドの広がりを助けているのかもしれない。
世界で放送する場合は、タイトルは『POKÉMON』で統ーする。
97年にバンダイが『たまごつち』をアメリカに輸出したときも、名称はそのままにした。あえて英訳しないことで、語感の違和感を戦略的に利用したという。

185  〝ノー〞から始まったアニメ化

[[IMAGE CAPTION|
ポケットモンスター
フシギダネ
モンスターナンバーI番がこのたねポケモン。フシギソウ、フシギバナに進化する。ゲームの最初に出会うポケモンのひとつ
そこで、英語も北京語もタガログ語も、「ポケモン」の発音のまま、世界をめざす。
]]

--- MAIN TEXT ---
そのほかモンスタ—の名前は、「ピカチュウ」はそのままだが、あとは現地の言葉に呼応する名称に変更する。例えば「フシギダネ」は、英語では「バルブザウルス」(苔をもった恐竜)。
現在、各国の言葉に対応する名前を、現地のエージェントや現地テレビ局と共同作業で決定している。
キャラクタ—デザインについては、日本では3頭身のロリコンキャラクターが圧倒的な人気を誇っているが、アメリカの場合は子供じみたキャラクターは嫌われる傾向が強い。日本での「カワイイ」が、アメリカでは「チャイルディッシュ(子供じみた)」になる。石原は、多少クールなイメージのキャラクタ—にする必要があるかもしれないと考えている。もしこれが一斉に放送されたら、ドラマ『おしん』につぐ世界ご用達のアニメになる日も近いかもしれない。