Secrets of Pokemon/Chapter 3: Creating a worldview that is not closed

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第3章

閉じていない世界観の
作り方

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ポケモンビジネスはメディアミックスを前提としない

子供の情報誌には
ビジネスチャンスが詰まっている
現在日本で発売されている月刊誌の中で、一番売れている雑誌は何かご存じだろうか。
普通の週刊誌より小さなA5判で、1冊750ページ前後とかなり厚みがある小学館発行の『コロコロコミック』、これが発行部数200万部と圧倒的な売れ行きを誇る、日本で一番売れている月刊誌である。
ページをめくると、ゲームやキャラクタ—グッズの情報や、

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小学生の4人に一人が買っているともいわれる『コロコ口コミック』。97年9月号で、200万部という異例の発行部数を達成。 480円
]]

--- MAIN TEXT ---
イベント情報、ゲームの新商品の遊び方の解説や通信販売など、子供たちの遊びやコミュニケーションにとって必要な情報がカラーページにふんだんに紹介されている。
さらにミニ四駆をチューンナップしてレースに挑む兄弟を主人公にしたコミック『爆走兄弟レッツ&ゴ——』や、ポケット モンスタ—のキャラクタ—「ピッピ」を主人公にしたコミックも連載されている。
今までにも既存のキャラクターを使って商品開発をしたり、キャラクター商品やゲームの新作情報をいち早く伝える雑誌媒体は存在したが、『コロコロコミック』はそれらとは一線を画する動きをして、子供たちに支持され部数をのばしてきた。『コロコロコミック』は、企画段階もしくは発売ほやほやの商品やソフトといち早く手を組み、それをコミック化することで、商品とコミックの相乗効果で人気を高める。おもしろいと思うオモチャやゲームソフトがあれば、編集部が積極的にコミック化を進める。メーカーと協力し、商品のおもしろさが伝わると

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同時に、それがほしくなるようなストーリー展開を一緒になつ て考えてゆく。
これと並行して商品開発をさらに進めるために、連載と同時 進行で商品が展開されるということになる。
つまり『コロコロ』は常に新しい情報の発信源になるととも に、商品に付加価値をつける媒体としての機能を担うようにな ったのではないか。
1996年2月27日、任天堂のゲームボーイソフト『ポケッ トモンスタ—赤・緑』の2本が世の中に出るのとときを同じく して、『別冊コロコロコミック4月号』(2月28日発売)でコミ ック『ポケット モンスタ—』の連載が始まった。

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企画提案型で相乗効果を狙う

ポケモン展開の仕掛けの第一歩
『コロコロコミック』との連動は、クリーチャーズの石原恒和が編集部に企画を持ちかけることで始まった。
「コロコロコミックで、ポケモンのコミックを掲載してもらえませんか」
石原は任天堂の川口らとともに、コロコロの編集長の三浦卓嗣と副編集長の久保雅一に頼んだ。
クリーチャーズとコロコロの編集部とは、コロコロがミニ四駆のゲームの企画制作をクリーチャーズに依頼するということ

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で関係があった。コロコロでは子供に人気のミニ四駆の一層の拡大を狙って、商品とコミックに加えゲームも立ち上げようとしていたのだ。
この石原の申し出に対し、コロコロ編集部は、即答はしなかった。何よりもまず自分たちでゲームをやってみて、本当に面白かったらマンガ化を検討しようと思ったのである。副編の久保は、ポケモンはたしかに面白いゲームだと思った。しかも、今までのゲームにはない、「交換」「進化」というキーワードにひかれた。
「これは当たる」
ヒットを確信した久保は、すぐにコミック化を推進した。といっても、いきなり連載開始というわけにはいかないので、ソフト発売時期と重なる別冊での掲載からまずスタ—卜することに決めた。こうしてゲームと雑誌の連動の第一歩がスタ—卜した。
通常ならメディアミツクスの仕掛けが成功したと言えるのだ

77  閉じていない世界観の作り方

が、石原はいう。
「ポケモンは、メディアミックスからスタ—卜したのではありません。根本にこのゲームは面白いのか、閉じていないのか、それがあっただけです」
メディアミックスというのは、効果的に宣伝を行なうために新聞・雑誌・電波媒体などさまざまな広告媒体を組み合わせること。ポケモンの展開はまさに、メディアミックスが最大に効果的に成功した例のように見える。
しかし石原が自ら動いて仕掛けたのは、フィギュアの製作とコロコロに向けてコミック化への働きかけをしただけである。それ以降は、インタ—、不ットのネットワークが自然増殖するかっこうで瞬く間に広がったように、相手からアクセスしてきて構築されたものだ。
短時間で思いもかけない広がりをみせたのは、ポケモンというソフト自体が「閉じていない」状態だったからという。「面白いゲーム」という共通認識があり、それがパスワードになつ

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て広がっていった。
『コロコロ』の編集方針もまた、「面白いかどうか」が、誌面と連動するかどうかの判断基準である。そこには義理も人情も関係なく、読者に面白い情報をいち早く提供したいという思いがあるだけといえる。
この「面白い」という共通認識において、コロコロとポケモンは合致して、化学変化をおこし、大爆発してゆくのである。そもそも月刊『コロコロコミック』は、長寿キャラクターである『ドラえもん』のために創刊された雑誌といっていい。当時『ドラえもん』は小学館の学年誌に掲載されていた。子供たちから『ドラえもん』をもっとたくさん読みたいという要望が高まり、それにこたえる形でスタ—卜したのが『コロコロコミック』。創刊は1977年5月のことだった。『コロコロコミック』が注目されたのは、ミニ四駆のヒットからである。

79  閉じていない世界観の作り方

ミニ四駆は2回ヒットの波がある。1回目は10年ほど前で、『ダッシュ四駆郎』というコミックを掲載、それがテレビアニメ化されてミニ四駆ブームになった。
しかしアニメが半年で終了すると同時にブムも終息している。現在のブームは『爆走兄弟レッツ&ゴ—!』というコミックとミニ四駆で有名な田宮模型が情報を交換しながら、次はどんなボディを登場させ、どんな改造法でストーリ一を盛り上げるかという打ち合わせを行ない方向を決めてゆくことで支えられている。それに基づいてコミックが描かれ、メーカーは実際のボディやパーツの商品開発を進め、雑誌の発売時期にあわせて新商品を展開するという連動をきめ細かく行なっている。編集部、マンガ家、メーカーが一体となって、物を作り、遊び方も含めた情報提供やイベント開催をトータルで進めている。

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感覚的な共通認識を持つことが結びつきの第一歩

閉じていないことから始まる可能性
「ポケモンは閉じていない」ということが、証明されるある出来事がおこった。ポケモンは、ひとつのパッケージソフトとして販売されている。つまり外見上は、完結しているソフトである。ところが、外からなにか新しいデータをいれることで、さらにそのゲームが発展し、拡張してゆく要素が隠されていたのである。
その情報は、ユーザーからもたらされた。
「もう1匹、モンスタ—を発見したんです」

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[[IMAGE CAPTION|
ポケットモンスター
ミュウ
ゲームの中には現れず、懸賞やイベントなどでしか手に入らない新種ポケモン。超レアなので幻のポケモンとも呼ばれている
]]

--- MAIN TEXT ---
これにはプロデューサーの石原も驚いた。
発売したときは、「150匹のモンスタ—をゲットして、ポケモン図鑑を完成させてください」といっていた。ところが、あるユーザーが、もう1匹のモンスタ—を偶然発見してしまつたのである。
それが151匹目の「ミュウ」である。
ポケモンにあるデータを入れると「ミュウ」が出現するという状況が発生する、ということがわかってしまった。もちろんプログラミングの時に、「ミュウ」のデータが組み込まれていたから出現した。
ゲームは正確に作動するかを検査するために、専用のプログラムが入っている。途中で止まることなく、先に進むことができる特別なプログラムを組み込んで、とりあえず最後までソフ卜を作動させる。検査が終了したら、そのプログラムは消去したり、作動しないように禁止をかけておくというのが通常の処理の仕方である。

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ポケモンの場合は、検査後にプログラムを消去したあとのスペースに、「ミュウ」のデータを入れておいた。これはプログラマーが遊び心でやったらしく、関係者にも知らされていなかった。
ところが、ある条件を外から加えると、「ミュウ」が出現するということがユーザーによって発見されてしまった。「ミュウ」が生まれたことによって、本来閉じていたはずのゲ—ムに新しい可能性が開かれた。
開かれたゲームになったので、今度は『波乗りピカチュウ』も出るし、ゲームボーイのデータをそのままNINTENDO64にもってゆくこともできる。一つのゲームが拡張して継続してゆけば、今まで1個1個作っていたものが飛躍的に発展してゆく可能性が生まれた。
マーチャンダイズを含めた周辺の状況に加え、ゲーム自体も外に向かって「閉じていない」という、二重構造が見えてきたのだ。

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これは面白いということになり、さっそくコロコロ編集部に連絡した。
「それは面白い。じやあ、読者プレゼントをやりましょう」ということになり、4月15日には月刊『コロコロコミック』5月号で151匹目のポケモン「ミュウ」の存在を発表するとともに、誌上で「ミュウ」を20名にプレゼントする告知を行なった。
「ミュウ」を20用意しておき、それぞれに番号を打って1個1個にIDをつけて、それをカートリッジに書き込んでゆかなければならない。プレゼントの当選者には、ゲームカセットを送ってもらい、そのロムに書き込んであげるという作業を行なった。
このプレゼントに対して、なんと7万8000通もの応募があった。実に、400人に一人しか当たらないという狭き門。編集部に届いたゲームカセットの山を見て、編集部は、「これは大化けするぞ」

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と確信した。
「当時発売されていたソフトは、せいぜい20万本くらい。ところがミュウに8万人近い応募があったんですよ。これでソフトを買ったのはウチの読者だと。大多数がウチの読者だから、これはキャッチボールができるなあと思ったんですよ。半分近くがウチの読者だったとすれば、何か情報を出しても、半分が動くわけですから結構大きなムーブメントになる。あとはひつぱられて動くのではないか」
「ミュウ」がポケモンヒットを実感する最初でかつ具体的な出来事だった。
また「ミュウ」は、ユーザーである子供たちに与えた影響も大きかった。「ミュウ」にはそれぞれIDがあり、自分のもつている「ミュウ」は世界で一つしかないということに対する喜び、これが信頼感を増す結果になった。
以降『コロコロ』編集部と任天堂、クリーチャーズ、ゲームフリークなどの協力のもと、ソフトの販売、ポケモンカードゲ

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ーム、キャラクター商品の展開、イベントなどトータルにプロモーションを展開していく。
のちに『コロコロ』編集部がアニメ化を提案、編集部主導で推進して、一気に社会的な認知度をあげるという、雑誌という媒体にとらわれない動きを行なっている。この『コロコロ』を核にした情報発信と展開が、結果的にメディアミックスになり、現在のポケモン人気の原動力となった。

思いがけない発見が新たな展開を生み出す

コロコロにおけるポケモンの展開
ゲームソフト発売と同時に『コロコロ』でのコミック連載を

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[[IMAGE CAPTION|
ガシャポン
フ丿レカラーコレクション
(バンダイ)
いわゆる ゛ガチャガチャ" のポケモン版。ポケモンが乗っている台座は、同シリ ーズ同士で組み合わせられる。I回I00円
]]

--- MAIN TEXT ---
スタ—卜させたあとも、雑誌とのタイミングのいい連動が続いていく。
7月15日は『ポケット モンスタ—金・銀』に登場する予定の新モンスタ—「ホウオウ」を『コロコロ』誌上で発表、その号で151匹目のポケモン「ミュウ」を100名にフレセントした。これにも、8万通以上の応募があった。
その時点で、バンダイからラムネ付き玩具菓子『ポケモンクラブ』や『ジャンボカードダス』が関連商品として登場している。また6月には同じくバンダイから累計7000万カプセルも販売された大ヒット商品、『ポケット モンスタ—』(ガシャポンカプセル)が発売された。
8月10日発売の9月号では、コミック『ポケット モンスタ—』を別冊から本誌に格上げして連載開始。
いよいよ人気の高まりを実感して、10月にコロコロの通信販売で、新しいゲームソフト『ポケット モンスタ—青』が発売される。

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[[IMAGE CAPTION|
ガシャポンの販売機。何が出てくるかわからないドキドキ感が、子供を夢中にさ
せ、累計7000万カプセルの大ヒットとなつた
]]

--- MAIN TEXT ---
この『青』は、関係者を驚かせようと思いゲームフリークがこっそり作っておいたいわば「私家版」のようなもの。『赤・緑』が発売された後も、田尻が違う角度からポケモンを捉え直してみたいと手を加えたもので、グラフィックも先行発売の2つとはモンスタ—のポーズを全面改訂、さらにマップも一部変更されている。
この『青』を、ゲームフリークが少人数の関係者にプレゼン卜した。コロコロの久保は『青』を受けとるや、読者プレゼン卜しようと持ち掛けた。やってみると『赤・緑』とは違う面白さがある。
ポケモンゲームは、「フシギバナ•ヒトカゲ・ゼニガメ」の3種類から好きなポケモンを選んでスタ—卜する。この3種類は『赤』『緑』『青』の3色に対応しているわけで、『青』がないのは変だと編集部では考えた。
編集部ではぜひ販売してほしいと思ったが、任天堂は『青』の販売を躊躇していた。

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[[IMAGE CAPTION|
ガシャポンポケモンスイングシリーズポケモンガシャポンの200円バージョン。2種類のポケモンがチェーンホルダーになってひとつのカプセルに入っている。I回200円
]]

--- MAIN TEXT ---
任天堂が『青』の販売をためらったのは説明書を書き替えたりといった手間とコストのバランスで、積極的に販売したくなかったからだという。当時の事情を久保は、「最初はノーだったんですが、それでも売りましようといったら、じやあ流通ルートを用意してくれませんかということになったんです」
こういう経緯からポケモンの『青』は、スペシャル限定バージョンとして、コロコロコミックをはじめ小学館の雑誌8誌で通信販売されることになった。パッケージには、販売協力・小学館と印刷され、卸し作業も行なうことになった。通信販売に関しては関連会社の小学館プロダクションの通販部門の協力をえて10月15日に開始したのだが、すぐにパンクをしてしまう。
「要は考えていたことがすべて壊れたんですよ。僕らの予想では30万本くらいは売れるかもしれないと思っていた。ところが実際には60万本をこえる予約が殺到してしまって。だから住所

89  閉じていない世界観の作り方

をインフットして、ラベルをフリントアウトして貼って出すという作業をしようにも、パソコンがパンクして動かない。パソコンが。ハンクしたので問い合わせにも対応できないんですよ。注文の品が一体いつ発送できるかわからないんだから」久保が、戦争のように混乱をきわめた当時を振り返る。予想の倍の予約のために発送のスペースも、人手も倍になり、こうした緊急のコストがかさんでいった。この混乱はクリスマスが近づくにつれてピークに達していった。
「フリーダイヤルで問い合わせに対応しようと思ったのですが、すぐにパンク。それで回線を増やしたのですがそれでもパンクする。そうなると、怒りの電話が編集部にかかってくるんです。編集部の女の子が毎日怒られてしまいました。待たせてしまつた読者には申し訳ないと思いますし、最前線で電話で対応してくれた人たちは、しんどかったと思います」この『青』バージョン予約発売と同じ号で、ポケモンカードゲームのスペシャルカードを2枚付録でつけている。

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ポケモンカードゲームは、クリーチャーズの石原が考案し、発売のタイミングをじっとはかっていた商品である。ゲームとカードという同じキャラクタ—による、違う遊びの展開で「面白さ」の広がりと深みを増そうとしていたのだ。
その煽りとして、カード発売5日前の『コロコロコミック』で、スペシャルカードを2枚プレゼントしたわけである。10月20日ポケモンカードゲームは、スーパーやコンビニエンスストア、そして玩具屋の店頭に並んだ。
2枚のプレゼントカードは販売されないので、ハッピーなスペシャルカードといえる。しかも実際のゲームで使えなければ意味がないので、編集部では任天堂からまったく同じ紙を購入し、滑りをよくするために同じ加工を施すという念の入れよう。「手間もお金もかかったけれど、本物でなければいかんだろうと思いまして。付録だからって、カードが遊んでいる途中で剝がれるようなことがあっちやいかんだろう。高級感もほしかったし」

91  閉じていない世界観の作り方

これが編集部の考えだった。
たとえ付録であっても、半端な物は作らないという基本方針が貫かれているから、子供たちは『コロコロ』を信頼する。この信頼が、商品ヒットの大きな原動力になっている。
そして翌年に向けて、いよいよアニメを仕掛けてゆくのである。

〃人がやらないなら自分やる〃 がチャンスをつかむ

コロコログッズコーナー誕生
1996年6月、イトーヨー力堂石巻あけぼの店のオモチャ売場に、「コロコロコミック・ホビープラザ」がオープンした。

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[[IMAGE CAPTION|
イトーヨーカドー全店に設置されている「コロコロコミック・ホビープラザ」。コロコロに紹介されている商品のほとんどが揃っている
]]

--- MAIN TEXT ---
ここは『コロコロコミック』から誕生した商品を1か所に集め、販売するコーナーである。
同じコロコロから生まれた商品でも、メーカーが違ったり、商品の形態も異なるので、従来は別々の場所で販売されてきた。それをひとつのコーナーに集めることで子供たちも買いやすくなるし、また編集部と連携が保てるので品切れすることなく商品を提供したり、独自のサービスができるようになるというメリットがある。
売場にはポケモンのゲームボーイソフト、カードゲーム、モンスタ—コレクション、バトエン、シール、プラモン、プラコロ、音楽CD、日用品、ポケモンキャラクタ—付き食品などが並べられている。そのほかにもビーダマン、レッツ&ゴー、.チョ口Q、ミニ四駆、ヨーヨー、ドラえもんグッズなどなど。店によってはトレーディングカード(サッカー等のスポーツ選手のカード)、バトメン、バスマスターなどが販売されているところもある。

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子供が求める玩具売場づくりを目指すイトーヨー力堂
]]

--- MAIN TEXT ---
この売場を提案したのは、イトーヨーカ堂・住居事業部•文具玩具担当チーフバイヤーの橋本好美である。
橋本は、子供とオモチャが好きで、休みの日には近所を自転車で回って、子供がなにをして遊んでいるのか、なにに興味を持っているのかを調査していた。ある時同じ雑誌を読んでいる子供たちが多数いるのに気づいた。調べたところ、『コロコロコミック』で売筋商品が紹介されているものであることを知り、コロコロが子供たちの遊びの情報源になっているということに気づいた。
そこで自らコロコロ編集部に連絡をとり、「コロコロコミック・ホビープラザ」の店頭展開を申し込み実現した。今まで流通からの申し込みは皆無であったため、編集部としてもたいそう驚いたという。橋本はいう。
「今はオモチャだけでなく、情報も一緒に売っていかなければならない時代だと思っています。例えば子供さんが、コロコロコミックを見ますよね。そこで見た商品が売場に並んでないと

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いけないわけです。ただ、コロコロコミックというのは一歩先ではなくて、半歩先の情報なんですよね。ある程度かたちが見えてからの情報なんですよ。発売日の2、3か月後とか来月という情報雑誌なわけなんですけど、例えば先月号を見て、商品の発売日がいつだと載っているのに、その商品が売場にないと子供さんたちが非常にガッカリすると思うんです。その商品は必ず置いておくということと、その次に出る商品、情報を売場の中でアピールできれば一番いいなというのがこのコーナーのコンセプトなんです」
1か月、2か月先に発売予定の商品は具体的に展示することはできないが、情報としてアピールすることはできる。このコ—ナーは商品を販売すると同時に、情報をできるだけ具現化しようとする売場であるといえる。
「ご存じのようにコロコロコミックというのは200万部売れているわけですよね。800万人ぐらいいる小学生の4人にひとり、男の子だけだとすれば2人にひとりがコロコロコミック

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を読んでる。我々が調べた限りでは、コロコロは捨てる本じやないんです。とっておくものなので、情報ページの読み直しがあるんですよ。頭にいっぐらいに出るかということは入っていると思うんですが、その具体的な確認のためにもう一回見るんですね。2人にひとりが見ているという部分を売場に反映させないと、どうしても子供たちの夢というものは叶えられないんじゃないかと思うんです。それにコロコロコミックには、変なオモチャの情報は載せてないんですね。ただのマスコミキャラクターというものではないんですよ。それは、遊び方の提案も含めて。こういうのは、僕は結構いいオモチャじゃないかと思うんですよ。単価は低いんだけれども、オモチャの質、遊びの質が高い」
これはコロコロ編集部が、常に念頭に置いていることと呼応「キャラクタ—を消費してしまうようなモノ作りはしたくない」

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[[IMAGE CAPTION|
夏の行楽へ向けて発売される『ビーチボールピカチユウ』。モンス夕ーボールをかたどったボールの中に、ピカチュウが入っている。トミー/1200円
]]

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これが『コロコロ』の基本理念だという。
取って付けたようなキャラクターの絵が入っているだけの商品ではなく、それを使って遊ぶことで、子供たちがより一層キャラクタ—の世界での体験を深めたり、友達同士のコミュニケ—ションが進むといったプラス・アルファを大切にしている。これが具体化したのが、イトーヨーカドーの売場といえるのである。
テレビゲームの登場以来、ずっと主流だったひとりで遊ぶものが飽和状態になって、次に友達とのコミュニケーション性の高い遊びを『コロコロ』が提案してきた。それが、最近の子供には目新しかったのではないか。
「とくにヨーヨーの場合ですと、子供のときにフームにあたった30代から40代ぐらいの人はみんなヨーヨーができるんですよ。その人たちは今、子供がいるわけです。子供さんよりも最初はうまいんですけど、子供さんは情報やイベント、学校なんかでいろんな技を覚えて、お父さんよりうまくなっちやうんですよ。

97  閉じていない世界観の作り方

[[IMAGE CAPTION|
モンスターボール
コレクション
(トミー)
ポケモンナンバーIからI2まではモンスターボーノレ付きで各380円。ほか280円。進化前と進化後の2個セッ
卜(480円)もあり
]]

--- MAIN TEXT ---
それはミニ四駆でも一緒ですね。最初はお父さんに手伝ってもらったりして組み立てていたのが、子供たちのコミュニケーションの中やコロコロコミックなどからの情報を得て、お父さんを負かすようになる。それが、大きなブームを呼んでいるんじやないかなという気がするんですよね」
橋本は、人気をこう分析する。
売場でのポケモンは、どのような動きをしているのだろうか。「モンスタ—ボールコレクションというモンスタ—ボールをデフォルメしたもの。あと、今の時期は入園などの準備で、ハンカチとかランチボックスとか、ランチ関連の商品も人気です。春からゴールデンウィークにかけては行楽用品.0そのあとはビニール関連のボールだとか、海で遊ぶものが話題になってくると思います」
橋本はポケモンファンを4つに分類している。
大きく分けて、ゲームボーイから入った人とテレビのアニメからポケモンのファンになった人。男の子と女の子がいるので、

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[[IMAGE CAPTION|
女子高生や0Lに大人気の『ピカチュウかかつTEL』。
携帯電話やPHSの電波に反応してボディが点滅する。
トミー/各 1800円
]]

--- MAIN TEXT ---
これで4つに分類できる。ゲームボーイから入った人は、男女とも年代も含めてものすごく幅が広いという。
しかし、テレビでポケモンを知ったというのは、女性が圧倒的。子供から女子高生、若いお母さん等もこのカテゴリーに入る。
今売れているのは、ゲームボーイから入った男の子向けの商品だという。カードといったマニア性、コレクション性の高いものがコンスタントに売れている。もちろんテレビから入った女性層も、ぬいぐるみを中心に大きいマーケットではあるが、アニメで新しいキャラクタ—が出てこないとちよつと陰りが見えてくる。テレビから入った男の子には、ボードゲームだとか、フィギュアが売れるが、テレビ放映がないと下火になる傾向があるという。
現在「コロコロコミック・ホビープラザ」は、全国151店舗で展開されている。10坪から15坪平均だが、新店舗に関しては20坪というスペースをとっている店もある。

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6月発売予定のスタンプセット。レター用とメツセージカード用の2タイプあり。
トミー/各1800円
]]

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実際の売れ行きはどうなのだろうか。広報室総括マネージャ—の高羽康夫は、
「びっくりしたのは、去年消費税が5%になったとき(97年4月1日)です。開店時間に子供たちがワーツといる。春休みだけれどなんでこんなに子供が来てるんだってことになって。原因はミニ四駆だったんです。ミニ四駆のおまけがついた映画券を、松竹の映画館とうちだけで売ったんです。その情報は店頭のほかはコロコロコミックでしか流してないのに、すごい反響なので、本当にびっくりしましたよ」
また『コロコロ』の付録で5%の割引が受けられるライセンスカードをつけたりと、本誌との連携を考えた展開を行なっている。キャラクタ—商品は版権の問題があり、ヨーカドーオリジナル商品を作る計画はないが、メーカーの商品をホビープラザだけで先行発売するということはよくあるという。
また映画のチケットは通常オモチャ屋では売れないが、チケットにホビーをプラスして商品を作り、それを映画の配給会社

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と共同で売れば確実に売れる。売場ではコロコロコミックも販売されており、1店舗あたり100冊から200冊はコンスタントに売れているという。
雑誌をみて、その場で掲載されている商品を買ってゆく子供はいないのだろうか。
「それはないんです。コロコロは半歩先ゆく雑誌なので、誌面には何月何日にヨーカドーでこういう商品を扱うと書いてあります。そうしないと、明日のお客さんは呼べないんです。ですから、先月号で今の売場を紹介していただいて、今月号で来月の売場をPRして。明日の売場をPRしていただくようにしてるんです。半歩先か一歩先かわかんないですが、未来という半歩先をPRしてもらうようにしてるんです」好調なホビープラザは、前年比2倍の売上げを記録している。

101  閉じていない世界観の作り方

新ジャンルの導入で子供をキヤツチする

ヤングからチャイルドへ〜
夕—ゲットを広げるコンビニ

コンビニエンスストアは、今や若者の生活に欠かせないものとして定着している。雑誌、飲料、菓子などはコンビニエンスストアでヒットするかどうかが、全国展開に向けての目安になるほど。
最近は客層を子供にまで拡大するために、コンビニでも商品構成の見直しが始まっている。
なかでもローソンは積極的で、以前から小学生や中学生を取

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[[IMAGE CAPTION|
ローソンでも予約販売を行なった歩数計つきミニゲー厶『ポケットピカチュウ』。完売に次ぐ完売の大ヒットに。任天堂/2500円
]]

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り込むためにオモチャを強化し、200、300円のビニールの風船といったベーシックなオモチャだけではなく、子供に人気の高いキャラクタ—商品の取扱いを検討し始めていた。手始めに96年4月の『NINTENDO64』の発売時に、予約販売というかたちでゲーム機とソフトを取り扱い、3万台売ったのが大きな実績となった。予約販売という形態は、『ウィンドウズ95』の発売時に実施しており好評だったため、リスクと在庫管理を考えて今回も予約販売を行なった。子供にもっと人気の商品の品揃えができないかと探していた矢先、『コロコロコミック』誌上で、『ポケット モンスタ—青』の通信販売を知った。
ローソン商品本部の日用品シニアマーチャンダイズマネージヤーの石井顕が中心になり、コロコロコミック編集部に販売タイアップをもちかけ、『ポケット モンスタ—青』の独占予約販売の権利を手に入れた。これが小学生を中心に爆発的に売れ、〃ポケモンならローソン〃的な考えが一般に普及し始めた。

103  閉じていない世界観の作り方

この『ポケット モンスタ—青』のヒットでローソンはポケモン人気を確信。97年8月から、商品展示用の棚(ゴンドラ)を丸々1本ポケモングッズで構成した「ポケモンコーナー」を立ち上げた。スタ—卜当初、店先に「ポケモンコーナー」を展開しているとい、っことを張り紙などでアピールしたこともあり、口コミを中心に子供たちの間に浸透してゆき、約500店舗からスタ—卜した「ポケモンコーナー」設置店は、98年2月末現在で約1200店に拡大している。
98年4月に行なわれた棚卸しを機に、さらに店舗数を拡大させた。なかにはオモチャのコーナーのゴンドラを2本に増やし、うち1本を「ポケモンコーナー」にあてるというところも登場した。
店舗の広さや立地条件によって「ポケモンコーナー」の展開規模もまちまちである。もともと玩具を取り扱っていた規模の違いもあり、前述のゴンドラ1本もあれば、ゴンドラ3分の2とか、ゴンドラ2分の1といった展開パタ—ンもある。

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とはいえ、ポケモングッズの玩具コーナーにおける割合は確実に高まってきており、この春から全国6649店ある店舗の半数以上の玩具コーナーの商品の7〜8割をポケモングッズにする予定である。
「ポケモンコーナー」をスタートするにあたり、店舗の選定には『ポケット モンスタ—青』の予約データを参考にした。現在の「ポケモンコーナー」設置店は、いずれも『ポケットモンス夕—青』の予約数が高かったところで、関東・名古屋・近畿地区に集中している。これらの店舗を調べてみると、近くに学校があるとか、団地があるというように、〃子供が多い〃という共通の立地条件がある。
商品はゴンドラに展示できる大きさであること、子供のおこづかいでも買える1000円以下のもの、品切れをなるべく防ぐために数量を確保できるものが選定の条件になっている。商品の価格帯は300円くらいから800円くらいまで。人気が高い『ポケット モンスタ—カードゲーム』の拡張パック

105  閉じていない世界観の作り方

[[IMAGE CAPTION|
原寸大サイズがウケたぬいぐるみ『ピカチュウ一/一』。子供や若い女性を中心に人気を集めている。トミー/6800円
]]

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(10枚入り291円) は、ほとんどの店舗で扱っている。また、ノートや鉛筆といった玩具も多くの店舗で扱っているが、これはここ数年のキャラクタ—ブームとともに、玩具と文具の境界線がなくなってきていることが大きく影響しているといえるようだ。
また、ゴンドラに置けないものでも、『ピカチュウ1/1』などの人気商品は簡易パソコンの『ロッピー』での予約販売でカバーしている。
コンビニエンスストアが、今のようにオモチャを扱い出したのは『テトリス』などのミニゲームが流行った2年前ぐらいのこと。ローソンでは、このミニゲームが火付け役となってコンビ二が本格的にゲーム機やゲームソフトなどの販売を行なうきっかけになったとみている。
それまでになんとなくあった「1000円をめどに、それ以上高い商品を扱わない」というコンビニ定義がミニゲームで打ち破られたというわけだ。このミニゲームブームからオモチャ

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の取扱いが拡大し、ローソンでのオモチャの総売上げは2年前の倍以上となった。
また、メーカー側にも雑誌やテレビなどメディアを利用したほうが商品売上げが伸びるという考えが定着しつつあり、宣伝カのあるローソンに対して1000円以上の高額商品の商談が増えたという。
ローソンの「ポケモンコーナー」やイトーヨーカ堂の「コロコ口コミック・ホビープラザ」の成功は、GMS(ゼネラル・マーチャンダイズ・ストア)がとっている販売形態とよく似ている。GMSは総合的に品揃えする大規模小売り業だが、コーナー展開というかたちをとっているものの、これらのコーナーからもまた、GMSと同じように魅力ある品揃え、コンセプトの明確さが打ち出されているからだ。
さらに、ローソンのように雑貨担当商品MD(マーチャンダイザー)が1社にひとりという場合にも、人気の商品を1か所に集中して集めることで、仕入れや陳列、販売促進の負担が軽

107  閉じていない世界観の作り方

くなるといったメリットもある。今後他のスーパーやコンビニエンスストアでも、こうした形態の売場が増えてゆくのではないだろうか。

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ローソン田園調布1丁目店の場合

---ROW 1---
ロ—ソン・田園調布1丁目店では、97年の秋よりポケモンコーナ—を設置した。この店舗はフランチャイズではなく直営店なので、ポケモンコ—ナ—を展開する以前から、さまざまな新しい試みを、本部からの意向をより忠実に反映させるかたちで実施している。

[[IMAGE CAPTION|
店長久保知彦氏。「ポケモンのおカ、げで子供のリピーターが増えました」
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それまではジャンルによつてバラバラに置かれていたポケモングッズ子類を含むがカレ—やふりかけなど食品類は除く)を、1つのゴンドラに美口させ、ポケモンコ—ナ—として展開した。だが、店舗の近所には学校も団地も見あたらない。ポケモンコ—ナ—を設置することで子供の客層に変化があったのだろうか。
「どちらかというと子供が少ない地域だとは思います。当初は、〃ポケモンコ—ナ—があります"というようなチラシを店頭に貼ったりしてアピ

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—ルしていましたが、口コミなどで徐々に子供たちに広まっていったようですね。ポケモンコ—ナ—を設置してから気づいたのは、子供が増えたというよりも、同じ子が何度も来てくれるようになったということです。それに、近くに学校はないんですが、その子が学校の友達を連れてきたりするというようなこともありますよ」
コンビニエンスストアで売れているポケモン商品には、どんな商品があるのだろうか。「うちの店ではシ—ルが一番人気があります。それと、ず

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っと人気が続いているのがポケモンカ—ドのスタ—夕—パックですね。ほかには、CDなんかもよく出ています。発売されたばかりなので、今はポケモンカ—ドの拡張パック『ロケット団』が人気ですが、発売日の前にいつ入るのかとか、子供からの問い合わせもありました」
欲しい商品が品切れしていると、いつ入るのか、何時に入るのかまで聞いてくる熱心な子供もいるという。また、ロ—ソンには、各種チケットや商品の予約・取り寄せなども可能な『口ツピー』という情報端末がある。ロツピ—は、97年9月30日

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から都内100店舗に設置されており、現在では全国の全店舗に設置されている。今のところ、この端末を使って商品を自分で予約している子供はまだあまりいないようだ。しかし、店員に予約の入力作業を頼むといったケ—スは増えてきている。
こうした予約•取り寄せシステムを取り入れたことにより、ロ—ソンは各店舗で在庫を抱えずに済むようになった。また、お客の側にも、よつぽど人気が集中している商品でない限り(メ—力—側の在庫が切れない限り)、目的の商品を4日後に確実に受け取れるというメリットが与えられ

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たのだ。
家の近所で、数日後には商品を手にすることができる確実性も、子供たちにロ—ソンが支持されている要素のひとつであるようだ。

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より商品をアピールできるよう、子供の目線に合わせて商品を配置
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